『クレイドル』戦場のスクィーズ

みゃも

第1話 テロ


   ──西暦2289年7月── 

時は今、《銀河惑星連合》の時代である……。


 眩く美しい幾億もの星々が煌めくこの大銀河の一角に、巨大なリング状の姿形をした直径ニキロメートルを越える人工建造物が静寂の宇宙の中、佇んでいた。

 数十光年をも一瞬で移動可能とする施設、《HOPホップ》[Hole Out Point]ゲートだ。


 その重要施設を守る《銀河惑星連合》第八防衛機動部隊の指揮艦船より三機の無人宇宙AI戦闘機UAFAがスクランブル発進し、ゲートの直ぐ脇をうねるように交わしながら光速で掠り抜けてゆく。

 そして、ゲートへと向かって来る全長百メートル程の不審艦に対し警告を行った。



『こちらは《銀河惑星連合》所属、第八防衛機動部隊デルタワン。貴艦は侵入禁止エリアに突入している。速やかに現宙域から退去せよ。

もう一度警告をする。こちらは《銀河惑星連合》所属……』



 しかし、何度停止命令を告げても返信はなかった。


『どうだ? スクィーズ……いや、デルタワン。相手からの返信はあったか?』

「……いえ、未だにありません。これから不審船に対し、攻撃を仕掛けますが、問題はありませんか?」


『いや、問題はある。……が、仕方ないな。相手はたったの一隻だ。速やかに排除せよ。我が連合のに懸けてな』

「了解、速やかに排除します!」


 冷静な面持ちのまま、まだ幼さの残る少女スクィーズは生来のその整った顔をゆるりと上げ。それから左右に3基ずつ、計6基の青白い光を後方に出す高圧式レーザーホールスラスターエンジンを最大出力で飛ばし、正面の所属不明艦に向かう。

 そのあと、軽く出前に引き、直ぐに戻して、相手艦の背後へと素早く回り込み、手始めに不審艦のロケットエンジンを狙い、ロックオン!


 即座に、ハイパーレールガンの光弾を数発高精度速射した。

 が、それは所属不明艦の外郭部シールドに阻まれ消滅する。

 しかも、そのタイミングに合わせ、相手艦はこちらを交わすかのように、その速度を増していった。


 明らかに、今のは計算的な動きだ。


「──クッ! コイツ、小型艦のくせに、多重電磁シールドまでも備えているのっ!?

指令部! 至急、対艦/機動兵器レヴラドールの使用を求めます! 相手の動きは牛だが、その皮は像かサイ並に!」

『了解した。087番機の使用を認める』


「感謝します。急ぎ、発艦を願います!」


 スクィーズは無人宇宙AI戦闘機UAFAをオートパイロットに変更し、視覚感覚を切り離す。

 今のスクィーズの目の前には、先程までの宇宙空間ではなく、ズラリとパネルが並ぶ遠隔コクピット内の様子が見えていた。


AIcrewアイクル、このままあの不審艦の足を停めて!」

《アイクル、了解。で……そのとは、何のことか?》


「は? バカな子だなぁ、あのロケットエンジンのことだよ。あれだよ、あれっ! 要は向こうへ行かせなければ、それでいいから」

《アイクル、把握。理解した。行動に移る》


 すると、先ほどまで彼女が操作をしていた宇宙AI戦闘機UAFAは、戦闘を継続し始める。


 アイクルとはA・I・crew〔Artificial Intelligence Crew〕の略称で、無人機などを肩代わりして動かしてくれる人工知能のことである。学習機能もあり、日々進化しているがまだ熟練したパイロットには及ばない。

 スクィーズは、そのAIcrewアイクルに戦術的な指示を出していたのだ。


「よぉーし。良いAIだ」

 それを確認して、スクィーズは操作機種変更プラグアウト&インを行う。視点は、未だ発艦途中の対艦/局地制圧機動兵器レヴラドール=ジェミノイドに変わった。施設群近くに停泊する指揮艦船内部から電磁カタパルトまで移動する様子まで、その全方位カメラアイを通じて、彼女の視覚感覚に映り見える。


 対艦/機動兵器レヴラドールとは、レヴラ・ホールディング社が開発した《局地制圧用機動兵器(ascendancy task force)》のことで。元々狩猟犬であるラブラドール・レトリバーの愛好者だった創始者が、この名前に決めたとされる。

 その性能も、まさに狩猟犬のそれにまさる機動性能を持ち、全高3メートルほどで、人が通れる場所であればどこへでもいける。

 無人宇宙AI戦闘機UAFAよりも小型でありながら、その装備は洗練されており。二連装ハイパーレールガンを両腕に装備、電磁シールド皮膜で覆われた艦船などの防御力を無効化する電磁防御膜破壊兵器アンチシールド・ナパーム弾と対艦/時限貫通弾ランカーバスター。多段自動追尾ミサイルパックを内蔵装備している。

 もちろん、細かな仕様はその機体の種類により様々であるらしい。


 これに対し、宇宙AI戦闘機UAFAは、レヴラドールには無い光速移動性能があり。それまで艦船のみ可能だった《オーバドライブ航法》も戦闘機としては始めて可能とした。

 故に、光速で逃げる海賊なども、単機にて、追尾迎撃可能な性能を誇っている。


 スクィーズはそこで軽く目を閉じ、それから視覚的にフィードバックされる対艦/機動兵器レヴラドールからの情報を前頭葉付近で感じ取り、感覚をそれに遠隔転位させ、発艦コースラインとなる電磁カタパルから途中でショートカットし、目標となる軌道へと向け、軍事用人形兵器アーマージェミノイドを最短距離で発艦させた。

 その手慣れた機体の扱いを見て、指令部の者たちは皆、ほう……と感嘆の声を上げる。


「指令部、もう時間が余りありません! 

対・電磁防御膜破壊兵器アンチ シールド・ナパーム弾をこのあと使用します。強力な電磁波に警戒してください」

『了解した。随伴機は必要か?』


「必要ありません。そもそも、もう間に合わないし……」

『わかった。但し、確実に仕留めてくれよ。距離がもうないからな』


「了解!」

 《HOPホップゲート》からの自動防衛光弾が、不審艦に対し無数に放たれる中。所属不明艦は、それら全てを潜り抜け、ハイパーレールガンを超長距離ロングレンジで撃ち込み、ゲートを使用不能にしていった。


「……クッ。何を考えている、この無差別なテロリスト共め! この亜空間ゲートは、一般の民間機も使っているのを知らないのッ!?」

 スクィーズはそのことで怒り叫び、所属不明小型艦を超長距離からハイパースナイパーライフルの最大火力で狙撃する。

 だがしかし、それは小型艦の外郭部シールドで弾かれ、キャンセルされてしまった。


 そこでスクィーズは小型艦へ最大ブーストで急速接近し、多段ホーミング・ミサイルを陽動として8発撃ち。即座に右手へ光速移動し回り込み、そこから更に最接近して対・電磁防御膜破壊兵器アンチシールド・ナパーム弾を相手の死角となる直下で狙い撃つ。

 陽動の8発は更に拡散分離し32発となって自動追尾し始めたが、それらは次々と迎撃されてゆく。

 だが、その内6発は当たり、それとほど同時にアンチシールド・ナパーム弾が小型艦に直下より命中する。それにより、相手艦のシールドが破裂され、その電磁膜が薄まり消えてゆく。

 眩い程の閃光と電磁波が周囲を包む中、それをスクィーズは対艦/機動兵器レヴラドールにて、前面シールドを多重に展開し、強引にその電磁波を押し退け、その小型艦へと必死の形相でとどめを刺しに向かう。


「速やかに降伏なさいッ! 死にたくなければねっ!!」


 外郭部シールドが消滅した小型艦の鋼板に降り立ち、対艦/時限貫通弾ランカーバスターを船体内部に撃ち込んだ!

 それとほぼ同時に、相手艦内に警告がなされた。

 これで勝負はついた。いや……正確には、その筈だった。

 だが、


「──なっ!?」


 小型艦は降伏することなく、エンジンを最大限に吹かし、ここから三十キロ先に見えるエネルギープラントへと向かい出したのだ。


「な……このバカっ! ──死ぬつもりッ!?」


 慌て、直ぐに四基全てのブースターを最大出力で噴射し、小型艦を追い抜き、空かさず回り込んで、懸命にブースト全開で押し戻そうとしたが。間に合わず、そのままエネルギープラントへと仲良く共に衝突。それにより、プラント外郭部大破。

 更に、不審艦に撃ち込んでいたランカーバスターの火薬に運悪く引火し、対艦/機動兵器レヴラドールと共に大爆散した。


 その影響により、丁度ゲートを使用中であった宇宙旅客機が一機…………となる。



 ◇ ◇ ◇



 ──ダンっ!!


「これは、私のせいだ! この私の油断が、招いてしまった……」

「……」

 《銀河惑星連合》第八防御機動部隊、基幹マスター級指揮艦船グラーフ・エンジェル艦内にある《戦略・戦術中央オペレーション・ターミナル》にて。レヴラドールから接続遮断プラグアウトしたスクィーズは、遠隔コクピットから出てくるなり、怒りに任せ、コクピットの角を叩きそう嘆いていたのだ。

 そこへ、軍服を着た30歳出前くらいの男が彼女に近づいてくる。


「スクィーズ・マクリーン中尉、何も君のせいじゃないさ。君は精一杯のことをやった。だから、何の問題もない。そのことは、ここに居るみんなだってよく分かっている」

「……ええ。そうですね、ワグワイア大尉」


 彼女は元気なくそう溢し言い、そこで結んでいた長いセミロングの髪をほどく。

 パイロットスーツ越しではあったが、その細身のしなやかな体つきに、周りの整備士も思わず吐息を漏らすほどであった。

 彼女は十五歳の時より、訓練生として軍に所属し。僅か二年余りで、エースパイロットとしての地位を自らの努力で掴み取っていた。

 両親共に戦争で亡くし、戦争そのものを嫌っていた彼女からすれば、皮肉としか言い様のない人生である。

 しかし、これもまた生き残る為だ。


「ワグワイア大尉、1つお願いがあります。これから艦長に会い、確認したいことがあるのですが、許可を頂けないでしょうか?」

「ん? 会う会わないは艦長次第ということになるが、何を聞くつもりなんだ?」


「先程のテロリストは、とても素人のではありませんでした。それに……」


 ──それに、このところ同じことが頻発している。

 こんな田舎の辺境宙域だというのに、何故か妙に気になる。


 スクィーズはその残りの言葉を心に秘め、改めて口を開く。

「艦長ならば、何か御存知ではないかと思ったもので」

「ふむ……。それはそうかも知れないが、それを知ってどうする?」


「これから戦う相手が何者なのか、またその理由が明らかなら知っておきたい、そう感じたのです」

「……そうか、まぁお前らしいな。わかったよ。そういうことなら、この私も一緒に行くよ」

 それに納得したワグワイア大尉は、スクィーズと共に艦橋にある指揮指令部へと向かった。


 ◇ ◇ ◇


 スクィーズとワグワイアが艦橋にある指揮指令部に入り、ここへ来た理由を艦長に伝えると。二人は、艦橋後部にある作戦室へと招かれた。

 出入り口には、警備の者が二人立っている。

 よほど、他の者に聞かれては不味いことらしい。


 そこには今、ボールドマン艦長と連合政府の要人であるジャミル補佐官が立ち待っていた。

 ボールドマン艦長は難しい表情を2人に見せたあと、ジャミル補佐官と軽く目を合わせ、それから徐に口を開く。


「なるほど、君が言いたいことはよく分かった。そして、その勘の良さにも敬服するよ。

しかしな、スクィーズ中尉。今はまだ口外する訳にいかんのだ。すまんがな」

「それは、何故でしょうか? 相手は、テロリストです。遠慮などする必要があるとは、私には到底思えないのですが」


 そうだ、相手はテロリスト。遠慮などする必要が何処にある?

 スクィーズは、そう思った。


「君の気持ちは分かりはするが、何しろ外交問題にまで発展し兼ねない案件なのでな、コレは。

だからまぁ……つまりは、下手に言えんのだよ」

「外交? ということは、国……いえ、惑星州合体規模の絡みがあるということでしょうか? ボールドマン艦長」


「うぐっ」

 その艦長の失言に、近くに居たジャミル補佐官が呆れ顔を見せ、代わりに口を開いてきた。

 ジャミル補佐官は、銀河惑星連合政府から派遣されてきた官僚だ。実にやり手らしい顔立ちで、年齢は艦長に近い40歳前後。連合政府要人であることを示す、金バッチをその胸に付けている。


「スクィーズ中尉。あなたは、第47惑星群【州合体】モンゴメルの代表、ロッシュ・シアナは御存知かな?」

「ハッ。名前だけなら、何度か聞いたことがありますが」


 詳細は知らないが、近頃のニュースでよく耳にする名だった。若くして評議会入りを果たし、今では有人星系群【州合体】の1つであるモンゴメルの代表に選ばれたと聞く。


「実は最近、この《【HOPホップ】ホウスパークンス》から近い星系で大量の資源とレアメタルが見つかった。

しかしそこは、《惑星州合体モンゴメル》と隣接する宙域になる」

「ン~……まぁ要するにだ。その領有権を巡って、今は銀河惑星連合政府とモンゴメルが外交戦を行っている最中らしくてなぁ。

領有問題については、くれぐれも注意するようにと、以前から連合政府より通達されている」

「では!」


「ああ。今ここで、長距離移動を瞬時にして可能とする、ホウスパークンスにある亜空間【HOPホップ】ゲート全てがに陥れば。その間に、モンゴメルがこの宙域に於ける実効支配を進めるのではないか?という懸念がある訳だが……」


 ボールドマン艦長の最後の引っ掛かる言い回しに、スクィーズとワグワイアは顔を見合せた。

 その二人の様子を見つめ、ボールドマンは困り顔に口を開く。


「とは言え、これはあくまでも我々の推測の範囲に過ぎないのでなぁ~。銀河惑星連合政府上層部も、この件については何一つハッキリしたことを示していない。

要するにだ、本当のところは何も分かっていない、ということだよ。だからこの件は、くれぐれも外部に漏らさないように努めて貰いたい。このこと、頼めるかな?」

「……」

 どうやら、余程の理由らしい。


「……あ、ハッ! わかりました。口外しないよう注意致します。ありがとうございました」

 スクィーズとワグワイアはそこで敬礼し、戦略・戦術中央オペレーション・ターミナルへと足を向けた。

 本当はまだ、確認したかったことがあるのだが。そういう雰囲気ではなかった。そんな理由もあり、その間スクィーズは思案顔を見せ続けながら歩いている。


「どうしたスクィーズ。先程の艦長の説明に、何か納得できないことでもあったのか?」

「あ、いえ……。ただ、それならば何故、連合政府の上層部は、このホウスパークンス宙域を手薄にしたままにしているのかと不思議に思えたもので」


「……あ、言われてみると確かにそうだな。何でだろうな?」

「それに、我々現場の方にもこのことを伝えておくべきではなかったかと。

でないと、判断ミスに繋がる可能性があると思われ……」


「まあ、それはそうなんだが。それについては、大方、連合の上層部から口止めされてたんだろう? 

しかし、うちのキャプテンはあの性格だからなぁ。これは伝えておくべきだと判断し、オレ達には、内々に伝えてくれたんじゃないのかぁ?」

「……ええ、そうですね。そうなのかも知れません」


 そう思えば、少しは救われるのだろう……。


 ワグワイア大尉の言葉を聞き、軽く頷きながらも、しかしそれでもスクィーズはどこか納得できず思案顔を浮かべていた。


 ◇ ◇ ◇


 次のスクランブルが要請されたのは、それから十六時間後のことだった。

「まったく! うかうかランチも食べてられない」


 スクィーズは《戦略・戦術中央オペレーション・ターミナル》へと急ぎ向かい、パイロットスーツに身を包むと、ターミナル内に整然と並ぶ遠隔コクピット内へと素早く入る。

 すると、自動的にコクピットハッチが下がり、暗闇の中、ユーザー照合を完了させてゆく。

 その後、両サイドモニターにポップアップ画面が次々と展開し、その一つへ手のひらをかざすと、スクィーズ専用にチューニングされた環境が自動的に整えられていった。

 それを確認し、一呼吸置いて、真剣な眼差しで指令部の様子が見える画面の一つを見つめ口を開いた。


「指令部、相手の規模は?」

宇宙戦闘機UAFA16、対艦/機動兵器レヴラドール4、巡航艦3』


「巡航艦……? それに凄い数。相手は、テロリストではなかったのですか?」

『その筈だが、現にこれだけの規模が確認されている』


 今回は随分と、あからさまな動きを見せてる。モンゴメルは、何をそんなに焦っているのだろうか?


 スクィーズはそうした疑問を感じる。


「了解しました。今回は、宇宙AI戦闘機UAFAで対応します」

『ああ、そうだな。それが良いだろう。既に現宙域へ向かわせた104~107番機を好きに使ってくれて構わない。随時入れ替えも可能だ。余裕を持って向かわせているからな。巡航艦に対しては、対艦/機動兵器レヴラドールも併せ向かわせているから、安心をしろ』


「ワグワイア大尉、感謝します」


 慣れ親しんだ声に安心し頷くと、コクピット上部から頭を覆う装置が被さる。すると同時に、頭の中に何かが伝わり、前頭葉にスクィーズが扱う4機現在の状態や位置情報が視覚認識できた。


「全機、機体計測器に異常無しオールグリーン。これより対戦モードに移行します」


 途端、視覚転位し、前頭葉に戦闘宙域が広がっていった。

 現に戦闘宙域を飛行中の宇宙戦闘機UAFAが視覚センサーで捉えた様子が、前頭葉辺りで感覚的に360度見えていたのだ。

 いや、これはというべきだろうか?

 しかも、今彼女が居るコクピット内部さえも半分透過するような形で透け見渡せていた。更に、光速で動き回るターゲットも容易に捕捉できる。

 感覚的に扱える上、その視界の広さが、この装置の最大長所である。


 スクィーズは機体を少し右へ傾け、直ぐに戻す。すると敵機の姿が見え、直ぐに上へ逃げ出した。それを青白い光を後方に放つブースター六基全てを全開にして直ぐに追いかけ捉え、ロックオン後に素早くハイパーレールガンを乱射した。

 すると、それは相手UAFAのエンジンユニットに直弾し、燃料引火後、光の中に爆散消滅してゆく。


「先ずは一機! この単純な動きと脆さ……。どうやら相手は、ユーザー機ではなさそうね? 

ならば、この私の相手ではない!」


 三機目も追撃し、連戦撃墜したところでスクィーズはほぅと吐息をついた。

 そこへ、唐突に光弾が背後から襲ってくる。

 危うくやられる所だった!

 それを何とか、UAFA持ち味の光速機動性で俊敏に交わし、背後を捕ろうとするが、相手がこちらの予想を裏切り逆噴射して、スクィーズの背後を捕ってきた。


 明らかに、これまでと動き何かが違う。


「──くっ! まさか、ユーザー機? 面白いっ!」

『この、マゾな奴め……。何なら今夜このオレと、そういう刺激的なプレイを楽しんでみるかぁ? スクィーズ』


「──ッ!?」

 スクィーズがワグワイア大尉からそんな言葉を受け、頬を染め動揺している間に、先程まで操作していたUAFAが、多量の光弾を受けやられてしまった。

 爆散する直前まで機体とシンクロしていたので、少しズキッと頭に鈍い痛みを感じる。コクピット内部では、アラートマークが赤く点滅し、正面VRモニター上に『104番機ロスト』と表示されていた。


「ワ、ワグワイア大尉ッ、こんな時によくもそんな冗談を! 本当に怒りますよ!」

『ああ、すまんすまん。そう熱くなるなって』


 頬をまだ赤く染めたままで、スクィーズは深いため息をつき。直ぐに、機種変更プラグアウトした。そのあと素早くコクピット内部のポップアップ画面を操作し、105番機と接続する。

 すると、再び戦闘宙域が前頭葉付近で感覚的に広がっていった。


『現在の状況を報告する。宇宙戦闘機UAFA12、対艦/機動兵器レヴラドール4、巡航艦3。

おいおい、君の活躍がなければ、危うくこちらが全滅させられてしまいそうな状況じゃないのかぁ? コレは』

「当然ですよ! 向こうにはユーザー機が居たんです。分かっていましたよね? それなのに、あなたは」


『ああ、わかった。わかったよ。今夜は優しくそのカラダを慰めてやるから、安心をしろ』

「ちょっ!? 本当に怒りますよ! 誰もそんなこと頼んでませんよね! 大体そういうことは、好きな相手に対してだけ──くっ!!」


 目の前を無数の光弾が掠めてゆく。危なく撃墜されてしまうところだった。

 いつまでも彼の冗談に付き合ってはいられない。……というか、あとで必ず仕返してやる!


 スクィーズは再び真剣な表情に改め、ポップアップ画面の一つをタッチし、口を開いた。


「並走操作でコントロールを行う! AIcrewアイクル、レヴラドール部隊とのコンタクトを! 相手指揮艦船を叩けば、向こうは沈黙する筈。

巡航艦を集中的に攻撃せよ! さあ、始めなさい。

私は、その間にユーザー機を狙います」

《アイクル、把握。了解した》


 発艦していた六機の無人軍事用人形兵器アーマージェミノイドである対艦/機動兵器レヴラドール隊が、スクィーズの指示に従い、攻撃対象を絞り込む。

 これで、どうにか巡航艦の一隻くらいは何とかしてくれる筈だ。


 スクィーズがそこまで考え思案顔に耽るっていると、再び光弾が目の前を掠めた。

 慌て、空かさず右へと機体を振り、ブースター最大出力でレバーを引き、相手後方を捉えにかかる。

 しかし、簡単な話ではない。何せ相手も必死なのだから。


AIcrewアイクル、UAFA隊との共闘を乞う! 

今、ターゲットフラグを当てた敵ユーザー機を、挟み込んでっ!」

《アイクル、了解した》


 同じく発艦していたUAFA隊12機が、敵ユーザー機を標的に群がり出す。

 下手な動きだが、間違いなく、相手に動揺が見えた。


「頂いたッ!」

 ターゲットロックオン後、多段ホーミングミサイル・パックを四発同時に撃ち込んだ。それは更に、十六発に拡散追尾してゆく。

 それに併せ、ブースター最大出力で相手を追い込み、逃げる敵機を追い狙い済ませ、ターゲットロック確認後、ハイパーレールガンで乱射した。その内の数発が着弾し、多くの破片を周囲に撒き散らしながら、激しく爆散する。

 後処理に、ワイパーレーザーを発射した。宇宙ゴミスペースデブリの拡散を必要最小限度に留める為だ。


『状況を知らせる。敵UAFAは全機撤退、レヴラドール2、巡航艦1……。

やっこさん、どうやらとんずらしてやがる。我々の勝利だ。おめでとう』


 その報告を聞き、スクィーズはコクピット内にて、救われた思いで大きな深い安堵の吐息をもらした──。


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