裏・語られない1章

幼馴染とか親友とか説明とか

「………………はぁ」

「ん? ミリっちどうした?」


 意図せず溜息が漏れてしまった。その所為で一緒に勉強をしていた、親友のアイリ――本名はアイリス――に声を掛けられた。態々報告する必要はないけど、心配かけるのもアレなため正直に曝露する。


「…………キールに告白された」

「それはそれは! …………って、キールってあのキール?」


 告白されたと云う言葉に反応して瞳を輝かせたアイリだけど、相手がキールだと知ると苦虫を噛み潰したかのような微妙な表情を浮かべた。


 私たちが通う学園に名前はない。みんなは普通に学校とか学園とか、人によっては秘密基地だとか花園と呼んでいたりする。そんな学園は幾つか科が存在し、その道の専門家を育成する事を目的としている。なので、この学園での有名人は即ちこの国で有望な人物であると云える。


 キールは――――そんな学園の、有名人だった。知らない人の方が少ない。


「…………最近の事件はまだ収拾が付いてないらしいよ」

「最近の事件ってアレだよね? 長期休暇に入る前の『銅像粉砕事件』。相変わらずキール君ってぶっ飛んだ人だね~」


 そうだね、と適当に同意する。キールは悪い人じゃない。根は優しいし、かなり面白い人だ。…………ただ、そんな長所を打ち消す程度には全力で変人だ。


 キールと私は幼馴染みと云うやつで、でも初めて会った時は告白する程好かれていなかった。と云うより、嫌われていた。何故かは知らないけど、キールは何時も機嫌の悪い子供だった。別に声を荒げたり暴力を振るったりはしなかったけど、私と云う存在は煩わしかったようで無視されていた。


 何時仲良くなったかはよく覚えてない。気が付いたらキールは私に優しくなっていて――――


「ミリっち~、妄想するのは良いけど、私の事は忘れるなぁー」


 頬を突かれて我に帰る。妄想をしてたわけじゃ――――と適当に弁明しようと思ったけど、どうせアイリの事だから聞かないはずだ。云っても無駄なら、云わないに限る。


「んでさー、ミリっちは返事したわけ?」

「…………した」

「おぉ! カップル成立!」

「…………ううん、フッた」


 ぴしり、とアイリが行動を停止した。アイリは私とキールが幼馴染みだと云う事を知っているし、きっと私が告白を受けると思っていたのだと思う。私としても、何故フッたのかよく分からない。好きか嫌いかと問われれば、キールの事は勿論好きだ。だったら何故――――考えても答えは出ない。無理に答えを出すとしたら、私とキールの関係は恋人になるには近すぎたとか、私が友人としての好きと、恋人としての好きの違いが分からないからだとかそんな感じ。


「な、なんて云ってフッたの?」

「敬語で、レベルが500以下の人とは付き合えないって云ってフッた」


 アイリの問いに答えると、アイリは可哀相な物を見るかの如く私を見た。


「…………キール君が死んだら、ミリっちの所為だね」

「そこまで!?」


 思わずツッコミを入れてしまった。はっきり云って、そんな大事になるとは思えない。と云うより、キールが落ち込んでいる様子があまり想像出来ない。


「敬語とか殺傷力高いね。あと、レベルが500ってのもフラグだね。キール君、躍起になって高レベルのモンスターに突撃したりしない?」


 落ち込むキールは想像出来ないけど、キールが高レベルのモンスターに突撃して、ぽっくり逝くのは何故か容易に想像出来た。


 ただ、キールは殺しても死なないイメージがあるのは私だけだろうか?


「そう云えば、キール君って何レベルかミリっち聞いてない?」


 過去を振り返ってみる。…………正確なレベルは多分聞いた事がないと思う。


「確か、戦闘科の平均って云ってた気がする。詳しくは知らない」

「………………え?」


 またしてもアイリの動きが止まった。ただ、雰囲気としてはさっきよりかは驚いている気がする。理由は分からない。幼馴染みなのに詳しく知らない事に驚いたのだろうか?


「…………ミリっち、落ち着いて聞いてね」

「うん」

「まず、順序よくこの学園の制度からいこうか」


 何故学園の制度から話すかは分からないけど、適当に耳を傾ける。


 この学園は10歳から入学する事になる。それから4年かけて世界の常識や、魔法の基礎を習ったりし、そして14歳から専門家を目指すため、一人一人が別々の科を選択する事になる。


「つまり、だよ。私たちもキール君も14歳。科を選択したばかりで、まだ本格的な授業を受けているわけじゃない」


 ――――それなのに、キール君が戦闘科での平均レベルと云うのは、普通は有り得ない、とアイリは云った。


「なるほど、じゃあキールって強いんだ」


 だから学園長だか何かの銅像を粉砕しても、怒られるだけで退学にはならないんだ、と納得した。


「キール君、何時か有名な騎士になったりするかもね~。今のうちに唾付けておこうかな」


 有名な騎士…………か。


 そう云えば昔、キールに『俺、ミリの騎士になるから。俺がミリを守ってやるよ』とか云われた気がする。私も、幼いながらに胸を熱くした気がする。その時のキールは凄くかっこよかった気がする。今は変人だけど。


 思えば、私の初恋はキールなのかも知れない。


 もう1度キールに告白されたら私は――――。


 軽く頭を振る。今はまだ、そんな事は考えられない。








 翌日、私は娘連れのキールと遭遇する事になるが――――その話は、蛇足と云う物だろう。

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