娘とか金髪とかその他とか(4)

「…………キール、お前は一体何を拾って来た?」


 ただいまとか、そんな挨拶をする前にフィールさんに首を絞められる。俺は苦しむふりをしつつ、事前に考えていた事を話す。


「戦争孤児…………だ。父親の亡骸に縋っていたのを連れて来た」


 今、俺たちが住んでいる国と隣国は戦争状態にある。ここは王都に近いためあまり被害はないが、少ないか多いかの違いで被害がないわけではない。


「嘘だな。その娘、人間じゃない」

「な…………!?」


 呆然とフィールさんを見つめる。まさかそこまで看破されるとは思わなかった。


「答えろキール。その娘は何だ?」


 フィールさんの殺気混じりの瞳が俺を見据える。…………多分、俺が答えなかったらフィールさんはエーデルを殺す。正確には赤龍レッドドラゴンであるエーデルは殺せないだろうが、それでも殺そうとする事に変わりはない。良くも悪くも、フィールさんは俺たち兄妹を守るのに全力だ。


「…………赤龍レッドドラゴン。名前はエーデル」


 仕方なしに答える。もしエーデルと暮らす事に反対されたら俺はエーデルを見捨て…………る事は出来ない。多分、家を出る事になる。


 しかし、俺の考えは杞憂であったようで、フィールさんの返答は呆気ないものだった。


「そうか。拾ったのなら、最後まで責任を持って面倒見な」

「あ、うん」

「…………パパ、お腹空いた」


 エーデルは俺が首を絞められていたと云うのに、我関せずと云った感じで飯の催促をしてくる。俺、禿げたかも知れない。


「あー、ちょい待ち」

「…………だが断る」

「え」


 拝啓、全世界の保護者様。何故か娘が、無意味に俺の真似をするんです。どうすれば良いのでしょうか? 後、本格的にエーデルは俺の娘な気がします。敬具。


「と、取り敢えず肉だ肉」


 俺は台所に行ってフィールさんが買って来た肉を取り出す。何の肉かイマイチ分からない。因みに、肉には固定化魔法が付与されているため腐らない。…………固定化魔法とは俺が云っているだけで、人によっては防腐魔法とかそんな感じで呼んでいる。


 何にせよ、氷魔法使って冷蔵庫を作製! とかそんなNAISEIをしなくて済んだのはありがたい。


「…………『燃えろ』」


 この世界での魔法は、言葉や文字等に魔力を込める事で発動する。厨二だね。まぁ、色々な魔法があって面白いが。


「上手に焼けましたー…………と」


 謎のステーキ、レアバージョンの完成。特に料理スキルの高くない俺でも、加熱するくらいなら出来るんだぜっ。


「ほい、エーデル。皿に盛るからちょい待――――おぉう」


 全部云い終わる前に完☆食。流石はドラゴンと感心するべきか? いやまぁ、ツッコミを入れるべき何だろうけどさ。


「んー、まぁいいや。エーデル、それだけで足りた?」

「…………眠い」


 会話は成立していないが、満腹で眠くなったと解釈していいだろう。多分。


「その前に風呂入るか。風…………呂」


 風呂は存在する。次いでに云うと米とか味噌とか醤油もある。何故あるかと云われても、まぁ『dagger』の世界には元からあったし、つまりはそう云う事なのだろう。


 いや、問題はそこじゃない。風呂だ風呂。誰がエーデルを風呂に入れる? …………リリーは出掛けているし、フィールさんには自分で面倒見なと云われたばかりだ。


「つ、詰んだ…………」


 いや、俺は紳士だ。こんな所で死ぬわけにはいかない。大体、相手は幼女だ。つるぺただ。凹凸のないそのボディーに誰が欲情すると云うのだろうか。


「いや、それがいいんだろ」


 …………俺の意思とは無関係に口が動いたが、生憎思案中であったため、自分で何を云ったかは理解出来なかった。


「とにかく、行くぜエーデル」

「…………行くぜー」


 脱衣所に入り、エーデルを降ろし(今までずっと肩車だった)服を脱ぐ。そしてエーデルの服も下から順に脱がす。


「落ち着け…………これは風呂に入るから仕方のない事なんだ」


 震える手を抑え、無事に脱衣を済ませた俺たちは風呂場に入る。…………エーデルが眩しいぜ…………!!


「さっ、エーデル。先ずは身体を洗…………洗う、身体を…………?」


 この世界にはタオルで身体を洗う概念がない。石鹸を手で泡立たせ、身体を手で擦るだけだ。


「これ、何てエロゲー…………?」


 しかし、ここで止めるわけにもいかず、俺は石鹸を泡立てエーデルに触れた。


「…………」


 柔らかい。そして滑らかな肌触り。程好い肉付きで、少し力を入れると弾力があるのが分かる。


「ふぁ…………パパ、くすぐったい」

「あ、ごめん…………」


 微妙な雰囲気が流れる。このままだと俺は――――


「…………? パパ、背中に硬い物が――――」

「カタルシス!!」


 エーデルの言葉を全て聞く前に、俺は自身に向かって魔法を放っていた。カタルシス、聖なる浄化魔法の1つ。日本語としての意味は魂の浄化。



 その日、俺は目覚める事がなかった…………らしい。

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