娘とか金髪とかその他とか(2)

「爆裂封魔殺傷拳ッ!!」

「ぐはっ!?」


 何となく厨二な事を叫びたかったので叫んでみる。俺の回し蹴りで吹き飛んだゴブリンが金髪に直撃した気がするが…………俺、ゴブリンに手子摺るくらい弱小な人間だから、金髪を気にする余裕なんか無いんだ☆


「くっ、…………数が多い。たまに捌き切れないゴブリンの攻撃が直撃してしまう…………」


 疲れた表情で金髪は呟く。お前だってゴブリンに苦戦しているじゃないかバーカバーカ。まぁ、そのゴブリンの攻撃って俺が飛ばしたゴブリンのタックルだけどな。ゴブリン魚雷、みたいな。


 因みに、取り巻き2人は既にノックアウトしている。ゴブリン魚雷の最初の犠牲者だ。全く、本当に嘆かわしい事です。いや、俺は悪くない。弱いこいつらが悪い。…………だってこいつらの平均レベル、300オーバーだし。赤龍レッドドラゴンを倒すとか云ってたから800オーバーぐらいの熟練のパーティーだと思ってた。仮にも王子とその護衛がこんなに弱くて大丈夫なのだろうか?


「ここは一旦引く! 後は任せた!!」

「任されたッ!」


 さぁ、ゴブリンども。ここから先は一歩も通さな…………ん? 何で俺が引き受けているんだ?


「しまった! ハブられた!」


 くっ、ノリのいい性格が仇になるとは…………!! 絶対絶命の大ピンチ! ここからキール君はどうする!? 続きはコマーシャルの後!


「…………Stealth」

「ふぅ、これで安全…………ってもうゴブリンが来た!? あいつはどれだけ弱いんだあああぁぁぁ!!」


 ステルスで消えた俺に戸惑いつつも、ゴブリンは金髪の下へと赴く。…………計画通り。


 俺は金髪の断末魔をバックに、洞窟の奥を目指す。万が一、億が一にも赤龍レッドドラゴンが生きていたとしよう。すると、俺のレベルの伸びが悪かったのも頷ける。


「んー、でも即死スキルで生きてたらどうしようもないよなー」


 帰りたくなって来た。この世界は転生前の世界と物理法則が違うが、死んだらゲームオーバーな事に変わりはない。レベルが上がれば上がる程即死の概念はなくなるが…………それは人間相手の場合だったらだ。人間のレベルの上限は999ではあるが、ドラゴンやエルフのように人より上位に値する生物はその限りではない。俺は人間の攻撃で死ぬ事はないが、龍ドラゴンの吐息ブレスでは軽く即死する。…………まぁ、俺の攻撃はそれ以上のチートだけどな。急所に掠りでもすればほぼ即死だ。直撃すれば赤龍レッドドラゴンでさえ即死させる。


「…………ん?」


 のんびりと歩いていると、洞窟の奥から啜り泣く声が聴こえた。俺の紳士センサーが美幼女だと教えてくれる。全自動だから仕方ない。


 気になって(美幼女が、ではなく啜り泣く声が、であると云っておく。俺は紳士だから)走ると、俺より何歳か下に見える推定美幼女が洞窟の奥で涙を流していた。…………嫌な予感がする。あの場所は、俺が赤龍レッドドラゴンを殺した場所だ。


「そこの美しいお嬢さん、どうして泣いてるんだ?」


 俺が優しく問い掛けると、推定美幼女はゆっくりとこちらに顔を向け――俺の中で推定美幼女は美幼女になった――軽く腕を振った。俺がその行為に意味を見出だす前に、気が付いたら腹部に風穴が開いていた。


「…………ごふっ」


 吐血する。開いた腹部をどうにかしようと口を開くが、そこからは空気と大量の血が吐き出されるだけで何の意味も無さない。


 出血による血液の低下でフラフラする。俺は眩暈等に耐え切れず、膝から崩れ落ちる。それを見て美幼女はまた俺に背を向け啜り泣きを始める。


 俺は――――とか、そんな感じの映像が美少女の中で上映されているはず。『Assassin』の初期スキルである幻影系の魔法だが、美幼女――推定赤龍レッドドラゴンの娘――にも効いたらしい。


「んで、どうしたんだ?」


 再度問う。娘はゆっくりと顔を上げ――――全力で後退った。顔を引き攣らせながら。


「人間…………じゃない?」

「いや、人間も人間。インゲンの親戚っす」

「…………そう」


 流された!? 何気にこの娘は大物やも知れん。


「で、君は――――」


 諦めずにもう一度問おうとし、気が付いたら美幼女に押し倒されていた。…………何この背徳感。


「…………パパの匂い、する」


 そう云うと、美幼女は俺の身体を弄まさぐって来る。…………何この状況。まぁ、確かに全身が真っ赤な誓い☆になる程度には返り血を浴びたが。


「…………パパ?」

「いや、パパじゃないっす」

「…………パパ?」

「いや、だから――――」

「…………パパ?」


 お前はNPCか!? 心の中でツッコミを入れる。だが、ここで俺が父親である事を肯定してはいけない。後々面倒な事が起きるのが目に見えて分かる。


「…………幼女よ、俺は――――」

「…………パパ?」

「…………イエス! パパです☆」


 俺は悪くない、と云いたい。べ、別に幼女に負けたわけじゃないんだからっ。


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