赤龍とか受付嬢とか変態とか
「キキキ…………人間フゼイがッ……!!」
「うるせえ、喚くな」
ぎゃーぎゃー五月蝿い。たかがゴブリン風情が崇高なる俺様を罵倒するなんて1億年……いや、1兆年…………取り敢えず色々と早いわ!
俺の膝程しかないゴブリンを真上に蹴り上げる。そして――――落ちてきた所を、右手に持っているロングソードで叩っ斬る!
「…………ふぅ」
上半身と下半身を両断されたゴブリンは僅かに断末魔を上げ、べちゃりと地面にたたき付けられる。別に蹴り上げる必要等なかったが…………そこはまぁ、ツッコミは無しで。ただちょっと俺スゲーをしたかっただけなんだ! しかも、今の俺は14歳だし! リアル厨二だし!!
気を取り直して、ゴブリンの解体作業に取り掛かる。一応、今回ギルドで俺が受注した依頼は『ゴブリン10頭の討伐』である。初心者用の依頼だ。
初心者用であるわけで、ゴブリンを解体しても特に売れる部位は無い。装飾品は雑だし、武具はボロボロだ。汚いし錆びている。しかし、それでも討伐の証明としてゴブリンの左耳を提出しなければならない。グロい…………が、もう慣れた。流石に人は殺した事は無いが、人型の魔物なら狩りまくった。
「…………うっし、終了! 帰りま――――は?」
ゴブリンはでっかい、バカでかい洞窟に巣くっていた。この洞窟は昔…………凡そ300年前にいた赤龍レッドドラゴンが作った人工ならぬ龍工な洞窟で――――とか、そんな話しをしていたら大抵の人間が気付くと思う。聡明なエルフは勿論、ドワーフや各獣人たちも気付くと思う。
――――見上げると、でっかいトカゲさんがいました、まる。
『汝、我が臥所に何用か』
ドラゴン特有…………ってわけではないが、取り敢えずテレパシー的なやつが頭に響く。音声だけじゃなくて映像も受信出来たら、地デジの次の発信方法になりそうだ。
…………ってか、『ふしど』って何ですか!? …………褌ふんどしではないだろうし、武士道…………でもないだろうなぁ。取り敢えず俺はゴブリンを――――
「ぶっ殺しに来た」
『…………』
え? なんで黙るの怖い。俺、なんか変な事云ったのか?
「…………Search」
取り敢えず、ドラゴンとは穏健に話し合いをし、見逃して貰う算段ではあるが、もし万が一にも襲われると怖いのでドラゴンのレベルとかは把握しておこう。まぁ、転生した俺に勝てる存在なんて皆無だと思うが。
「えーと、レベルは…………5234っと」
ん? 5234って1300よりどのくらい低いの? …………って、5234!? 俺より圧倒的に高いとかそれより何これは夢? 夢ですよねそうと信じたい馬鹿な!? 頬を抓ると痛い! つまりこれは現実であると云う事でここでドラゴン様に殺されて近くの町にリスボーンされるわけですね、分かります。
「餅搗け! …………じゃなかった。落ち着け俺!」
ドラゴン様の方がレベルは圧倒的に上だ。ここはドラゴン様に恩情を掛けて貰うしかない!
『ほぅ…………人の子が我をぶっ殺すと。中々面白い事を云うな』
「どうして!?」
俺は何時ドラゴン様にぶっ殺宣言した!? 混乱の最中でか? 俺は馬鹿か!? いや、馬鹿だッ!!
「えーと、じゃあ、その面白さに免じて、俺の全力の一撃を一発だけ受けてくれませんか? 何もせずに死ぬのって、悲しいじゃないですか」
『…………自分が死ぬと分かっていて我に挑むとは…………汝は中々面白い人間だな。…………ふむ。では、汝が一発だけ我に攻撃を与える事を赦そう』
「やっほーお兄さん」
ギルドに依頼成功の旨を伝えに行くと、俺の担当である受付嬢を発見した。…………正確に云うと受付嬢に担当は存在しない。空いている所を適当に選ぶだけなのだから。しかし、俺に向かって気怠そうに手を振っている受付嬢――アリア――に俺は、何故か逆指名されている。まぁ、別にこれと云った手間が増えるわけでもないため、俺はこの現状を享受していたりする。
「ほい、依頼書とゴブリンの耳」
「んー、確かに」
アリアは俺からゴブリンの耳が入った袋を受け取ると、中身の確認をせずに後ろに放り投げる。
「おいおい、確認しなくて良いのか?」
「別に。お兄さんの事、信頼してるから」
多少棘のある娘だが、こう云った可愛い事を云ってくれる。抱き締めたくなるのは俺だけではないはずだ。…………まぁ、俺以外の男が抱き締めたらぶっ殺すが。
そんな事を考えていると、アリアと目が合った。棒付きキャンディーを弄びながらこっちを見るアリアは…………意地の悪い顔をしていた。
「お兄さん、遅かったね」
「ははっ、ちょっと手子摺ってね」
「ふーん、ゴブリン相手にお兄さんは手子摺るんだ。…………相変わらずお兄さん、雑魚だね」
「ぐはっ」
俺の精神に計り知れないダメージ。しかし、こんな可愛い娘に罵倒されるのは…………あっ、いや何でもないです。
「まっ、これでも食べて元気だしてね」
口内にキャンディーを突っ込まれる。何味かは分からない。蜜柑とかそこら辺。ただ、柑橘系の爽やかな風味と甘酸っぱさが俺の心を落ち着かせて――――くれない。これはアレですか? 俗に云う間接キスとか云うやつでは…………?
恐る恐る顔を上げると、にやにやと笑いながらこっちを見るアリアと視線が交じる。
「年下の女の子の唾液、美味しい?」
「ぐっ…………」
「あはは! 相変わらずお兄さんは変態だね」
云い返せない。いや、だがしかし俺は変態ではない!
「俺は紳士ジェントルマンだ!」
「…………? じぇんとるまん? それが何かはよく分かんないけど、お兄さんは変態でしょ?」
馬鹿な!? 横文字が通じない…………だと? 理不尽だと云いたい。何故ドラゴンとかは通じるのにジェントルマンは通じないんだ! そもそも名前からしてアリアって横文字じゃないかッ!
「違う、俺は――――」
ん? 待てよ。紳士って、よく変態と一緒に使われるよな。変態紳士! とか変態と云う名の紳士だよ! みたいな感じで。
「俺は?」
つまりアレか? 紳士は変態って事か? そうなると変態じゃなくて紳士ジェントルマンだ! とかそんな感じの事を叫んだ俺は変態だと云う事か…………?
…………そうか。俺は、俺は…………!!
「――――変態だッ!!」
え、ちょ、何で皆さん揃って俺を見てるんですか? 視姦も犯罪だと思うんですよ、俺は。犯罪反対。変態撲滅。
――――って、よく見たらアリア、何でそんなに『こいつ、駄目だ』みたいな瞳でこっちを見てんだよ。興奮するじゃないか。
「…………あ、お兄さん、何か用事あるんじゃない? 早く帰った方が良いよ」
ん? 何で視線を合わせてくれないんだ? …………まさか、これが噂の放置プレイ!?
「あぁ、そろそろ帰るよアリア。じゃ、また来るから」
「…………え? 言外に帰れって云ったのに、何で嬉しそうなの…………?」
踵を返し、俺はギルドを後にした。
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