prologue(3)

「野郎共! ヒーローのお出ましだぜ!!」

「兄貴と呼んで良いですか!?」

「もうスッゴく感動しましたッ!」

「半分諦めてました!」

「やるねぇ、兄ちゃん!!」


 攻城戦が終わると、必ず落とした城の中でパーティーが始まる。今回、運営からMVPに選ばれた俺は色んな人間に話しかけられ大変な事になっていた。


 本来、敵の城主を倒してもMVPには選ばれないが…………今回は特別だった。


 俺たちの国の、城攻めに行った前線の部隊が罠に掛かり全滅した。


 攻城戦において死んだやつは復活する事なく、攻城戦が終わるまで独房みたいな所に入れられるため、俺たちは開始早々半数の人間だけで攻城戦に挑む事になった。無論、現実の城だとたかが2倍の勢力では城を落とすのはよっぽどの事がない限り無理だが、これはあくまでもゲーム。門は最初から開いており、勝敗は城主の生死で決まる。誰の目から見ても負けは必然だった。


 時間による引き分けが存在するため、それに希望を託した人間もいたが、それでも全体的に士気は低かった。


 だから俺は、単独で城に向かった。


 俺たちの前線部隊をほぼ無傷で全滅させた敵さんは異常に士気が高く、少しでも功を上げて良い報酬を貰おうと、我先にと俺たちの城に攻め込んで行くのが遠目からでも分かった。


 策士策に溺れるとはこの事。城主を守る人間はたったの5人しかいなかった。


 たった5人とは云え、普通なら勝てない。しかし、俺は普通じゃなかった。俺のクラスは『Assassin』。取得経験値が低いためレベルが上がりにくく、俊敏値は高いが筋力値が異常に低いので敵にダメージを与えられない。ソロは不可能で、パーティーでは嫌われる。誰が見ても分かるハズレJob。今までの『Assassin』の最高レベルは50オーバー。オンラインとしては珍しく、本当に誰もいないJob。


 しかし、『Assassin』はレベルが900を超えるといきなり化け物になる。意固地になってこつこつとレベル上げをしてた俺でもぽかーんと口が半開きになるくらい強くなる。大事なことだからもう1度云うが、異常に異様に目茶苦茶に強くなる。今まで運営が『Assassin』を消さなかったのに納得してしまうくらい強くなる。あ、1度じゃなかった。

 900を超えた『Assassin』の固有スキル(Unique Skill)は主に索敵(Search)、隠密(Stealth)、暗殺(Assassinate)の3つだ。


 索敵スキルは意識すれば人間だろうがモンスターだろうが、薬草のようなアイテムの類だって用意に探す事が可能となる。探したい物を意識するだけで、ステータスが表示される。後は、そのステータスが表示されている場所に行くだけでいい。勿論、壁越しでもステータスの認識は可能だ。


 次に隠密スキルだが、これも中々に使い勝手がいい。隠密を発動すれば、『Assassin』の索敵スキル以外では見付ける事は不可能で、仮に敵とばったり出くわしても何か違和を感じるだけで、即座に発見には到らない。五感を騙すわけだから、最強のステルスだと云える。


 そして最後。完全チートな暗殺スキル。レベル制のMMORPGにおいて、ある程度レベルが上がれば即死の概念はなくなる。しかし、『Assassin』の暗殺スキルはその即死を可能とする。効果は至って簡単で、人体の急所に攻撃を当てた場合HPに関係無く即死させる、と云う物。


 しかし、本来ならこんなチート技は使う気などなかった。『Assassin』が最強だと云う事を知るのは、俺と一部の人間だけで十分だからな。


 ……これからは『dagger』が荒れるな。実はカスJobが最強と知った連中が『Assassin』にJobチェンジするだろうからな。


 まぁ、Jobチェンジするにはキャラの初期化が条件だからそれほど増えないとは思うが……。


「キー君、あの……ありがとうね」


 物思いに耽っていたためか、我が城主殿が俺の背後に立っていた。城主殿は俺のリアルの知り合いで……リアルの立場は『幼馴染み』。


「……奈々」

「あ、あとね、今日は――――」

「お兄ちゃんっ!」

「ぐほっ!?」


 どうしようかと思案に暮れていると、背後から妹のドロップキックをモロにくらった。此処は既に俺たちの城であるため、HPバーが減少する事はなかった。


「お母さんがご飯だから下りて来なさいだって!」

「わ、分かった。じゃ、一旦ホームに戻るよ」


 突然の事で焦るが、これは妹の救いの手であると悟った俺は、奈々を一瞥すると「……さよなら」とだけ残して転移する。場所は『dagger』にて少し前に俺が買った自宅。


 視界が闇に包まれ、一瞬の浮遊感。気が付いたら、俺は自宅のソファーに横たわっていた。


「やっほー、お兄ちゃんっ」


 俺より先に転移を済ませたのか、目の前には妹がいた。


 蛇足だが、『dagger』で購入した自宅には来客設定と云うものが有り、妹だけは自由に出入り出来る。


「助かったよ色葉。ほんっと恩に着る!」


 ぱんっと、手を合わせる。それに満足したのか妹――色葉――は、にやりと口端を歪めた。


「んじゃ、一週間はお買い物の荷物持ちね。あと、日曜日に服買いに行くから、そっちもよろしく」

「ははっ、この駄目兄貴、全力で妹様の買い物に付き合わせて戴く所存です!」

「うむ、よろしい」


 妹に平伏する、なんとも駄目兄貴な構図が出来上がった。


「じゃ、家に戻ろ」


 そう云って妹は消えた。ログアウトしたらしく、無数に飛び散るポリゴンが綺麗だ。


「んじゃ、俺も……ん?」


 ログアウトしようとメニューを開くと、運営からのメールが届いている事に気が付いた。


「えーと、平素より『dagger』のご利用、誠にありがとうございます――」


 メール内容を要約すると、MVPに運営からのプレゼントだぜっ☆ってな感じ。送られてってか、贈られて来たアイテムは『転生の書』。効果は、使用者を能力値をそのままに初期レベルに戻すと云う物。


「……やっべぇ、完全チートだ。運営は何考えてんだ? ……取り敢えず、これは色葉に相談するしかないな」


 メニューからログアウトを選択する……が、ログアウト出来ない。


「何で……だ?」


 そして、この瞬間より後戻りの出来ない、デスゲームが始まった――――りはしなかった。無意識に『転生の書』を使用していたのが原因さ☆


「うげ! 初期化まで30分!?」


 地味にきつい。後で妹と母さんに怒られる……。


 若干ブルーになりつつも、目覚ましを30分後に設定して目を閉じる。起きた時には初期化は終わっているはずだ。


 ……意識を手放した。

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