prologue(2)

「…………Feather Steps」

「…………チッ!」


 Lance Skill『Feather Steps』によって俊敏値が約倍になった重戦士の槍が目前に迫る。同レベルの『Soldier』だったら『Assassin』である俺の方が圧倒的に有利だ。しかし、今は国同士の戦――攻城戦――中で、目の前の敵は城主である。


 攻城戦で城主を務めると云う事はつまり、現在攻城戦に参加している人間で最も強いと云う事になる。


 事実、目の前の重戦士はβテスターで、恐らく『dagger』の中で三つ指に入る実力者だ。無論、レベルもカンストしていて999だ。


「がはっ……!!」


 避け切れずに重戦士の槍が胴体を貫く。現実なら致命傷でも、レベル性のVRMMORPGにおいて、それイコール死には繋がらない。それでもHPバーはごっそりと削られ、2割を切った。


 即死ではないとは云え、槍が胴体を貫いている間は貫通ダメージでHPバーが削られていく。俺は削られていくHPバーを一瞥すると、重戦士の胴体を全力で蹴って後退する。ついでにやつが得物を手放してくれれば僥倖だが…………テスター相手にそんな幸運は訪れない。


「お前……まさかカンストしているのか……?」


 しかし、いくらテスターとは云え俺が死ななかった事に驚きを隠せなかったらしい。声が震えている。


「何驚いてんの? カンストしている人間なんて、『dagger』には数十万人はいるだろ?」


 『dagger』は正式サービスが約3年前にスタートした。原理こそ全く不明であるものの、フルダイブと云う魅力の前にはそんな物は関係無い。レベルの上限は999と少々高めで、ターン制でも無い現実のようなゲームでのレベル上げはきついが、それでも3年もやり続ければカンストする人間も増え、今では『dagger』総人口の10%近くはカンストした人間だ。


 今やっている攻城戦の参加者も殆どがカンストしている…………と云っても、そもそも攻城戦自体が950~999の人間しか参加出来ないイベントなのだが。


「そうではない! 私は『Assassin』であるお前がカンストしているのかと聞いているんだ!!」


 重戦士が声を荒げる。常に冷静沈着で有名なこいつの姿を他のやつが見たらどう思うか…………答えるまでも無い。そんな他人に思考を割くほど余裕があるやつはいない。何せ、β時代から『Assassin』はハズレJobだったのだから。


「…………残念ながら、まだカンストしてない」


 と云っても、俺のレベルは997とカンスト間際。…………たった2レベルの差で圧倒される『Assassin』の弱さにはびっくりだよ。まぁ、目の前の重戦士が異常に強いってのもあるが。


「Job固有Skillは何だ!? 索敵か? 隠密か?」


 城主と云う立場を忘れて聞いてくる重戦士に向けて、俺は笑顔で云った。


「即死だよ」


 言葉と同時にSkill『Knife throwing』を発動する。テスターである歴戦の兵つわものはそれに反応するが遅い。『Assassin』のSkill補正も手伝い、システム上必中必殺。


 俺の右手から投げられたナイフはそのまま眉間に吸い込まれ…………刹那、攻城戦決着のブザーが鳴り響いた。

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