「姉妹」達ー2

 役割を確認して、姉妹たちは散った。


「ト」それは彼女の「忍び名」だ。今居る「姉妹」達では一番下だった。


 彼女記憶は「里」と呼ばれる場所から始まる。ソレまでの事は何も覚えていない。周りには彼女と同年代と思われる子供達。性別、体格は様々だが、どこか自分と同じモノを彼らに感じた。

 子供達は「外の世界」に慣れる時間を僅かに与えられた後、「姉妹」「兄弟」に別けられ、更に少人数の組になる。

 そいして「忍」になるための過酷な知識学習と、肉体訓練が始まる。


 学習に着いていけない者。訓練中の事故で死ぬ者。それだけでは無い。忍具と称される「丸薬」を使いこなす為、服用し、効果の程を試される。体質の問題か?量を誤りか?ここでも命を落とす者が居る。


 そして「姉妹」と呼ばれる彼女達は、「兄弟」と違って「特別」な訓練があった。


 ある時に成ると、姉妹は誰もが「組頭」に呼ばれる。「悦び」を与え、偽る術を学ぶためだ。


 今ではすっかり何も感じなくなってしまったが、「ト」は今でもその時の恐怖、痛み、怖気、頬を伝った涙を忘れない。

 そして取り乱した「姉妹」が、組頭様に逆らい、処分されるコトも少なくなかった。


 上忍様は絶対、上忍様は神、その期待に応えることが下忍の務め、誉、悦び。

 「ト」は信じて疑わなかった、世界は「ソレ」だけしか無かった。彼女に遭うまでは。


 「忍び組一の使い手」


 そう称される姉、「ル」に、幼い「姉妹」「兄弟」達が手ほどきを受ける時があった。

 彼女の姿は美しく、そして術は雄雄しかった。特別に許された雅やかな忍び装束。考えられないが、姉、「ル」には許された。

 下命に失敗したことが無い、姿を見た敵は誰一人生残っていないからだ。どんな姿であろうと正体が知れる事が無いゆえに。


 「ト」は羨望を禁じえなかった。今までに無い、忍びに在ってはならない何かが心に生まれた。

 「ト」は修行に励んだ、「ル」追いつこう「ル」に成ろう。憑かれた様な意識が「ト」を支配した。


 弓の術を「ル」から教わった。しくじり、厳しい叱責を覚悟したが、「ル」は彼女を責めなかった。手を取り指導を続けた。こんな人が居るのか?「ト」は思った。


 「ト」は学んだ、「ル」は教えた、弓の技。そしてそれ以外も。「忍」として「生きる」と言う事を。



 彼女は今、複合弓を片手に木に登って刻限を待っていた。「術」の制限がある以上、敵の気を引き「姉」を援護する為には、直接切り込むしか無い。


 姉妹達は彼女を残し、敵の懐に入込むため、闇に消えた。


 一人で居ると寂しい、心細さが募る、一人で居ると仲間外れにされた気がする。


 それは違う!!


 「ト」は己を奮い立たせる。若輩ながら「ル」にも認められた弓の腕前。だからココを任された。姉妹が臆せず敵陣に切り込めるのは、自身への「信頼」と言う何のよりの証に他ならない。


 建物の屋根に、伏せた見張りを見やりながら。「ト」は刻限を確認し、弓を引き絞る。放つは火遁「炎蜥蜴」、爆薬の付いた矢尻で見張りを始末し、火事を起こさず破壊と音で「賊」の動揺を誘う。一種賭けも在るが、仕掛けの量には自信があった。


 脳裏には、美しく、雄雄し、、、、そして優しく「ル」の姿、幻の微笑みが浮ぶ。


 「賊」の油断もあってか、こちらに気付く気配は無い。纏った「隠れ蓑」は敵のを目を欺く役に立っているようだ。これなら姉妹達も心配は要らない。


 さあ、狼煙を上げよう!!


 刻限だ、引き絞った矢を、狙い定めて放つ。血よりも濃い、絆のために。


 気が付けば十六夜月が頂点に迫り、月光が辺に冴え渡っていた。

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