ゴールディー

 ゴールデンレトリーバと言うのは、軍用犬、警察犬として古くから運用さる犬種らしい。


 ゴールデンレトリーバは長く、呼びづらい。


 勝手に付けておいて、何をと思ったが、当時の上司に逆らった所で無意味だった。


 ゴールド、ゴールデン、ゴールディーそんな感じに呼び名が変わっていった。と同時に地位も上がった。

 「シュッセウオ」と言うサカナが日本に居たなと、ゴールディーはぼんやり考えた。


 ゴールディーは部下の配置、作業の進捗、脱出ルートの確認、些事の手配、すべてが頭の中で描いた行動計画の通り。滞りなく進んでいるかを確認し、結果に満足を得ていた。


 今回のミッションは、シンジケートと経産省の役人、日下部 十氏朗が共謀して、日本側の「常温核融合炉研究」の頓挫を図ったモノだ。


 ゴールディーは合った時の直感、そして交渉の態度で「オフィシャル・クサカベ」と言う男が嫌いだった。その男の手引きによる「下働き」の様なミッションも。


 研究資料の奪取は、シンジケートの一員として絶対条件だが。「プロフェッサー・カトウ」については、「クサカベ」の「資料の引き渡し条件」において「殺害」を命じられていた。あの二人にどんな因果があるかは知った事では無い。


 そもそもが「回りくどい計画」だった。日本のセキュリティーは甘い。「プロフェッサー・カトウ」を殺す事など何時でも出来た。だが「クサカベ」はリストをあげ、資料奪取の襲撃時に施設関係者、研究職員を殺害し、それを「カトウ」が確認した後。と言うオーダーを出してきた。


 シンジケートも「クサカベ」の「プラン」を検討し。払うコストに対し、得らる利益の大きさから「顧客へのサービス」として、その要求を受け入れた。


 確かに「オフィシャル・クサカベ」の手引きは「用意周到」、見事なものだった。その一点に於いて奴は評価に値する。が、奴にも予想出来ない事はあったのだろう。


 JAEA核融合研究開発部門での「日本の隠密部隊」との遭遇戦。連れてきた兵隊の2割を殺された。


 「業界」の噂で何度か聞いた事はあった。正式な呼称かどうか分らないが、皆、当たり前のようにそれを「ニンジャ」と呼んだ。


 遅れをとったものの「ニンジャ」を全滅させた、数も少なかったようだ。所詮「噂が独り歩きしているだけの虚仮威し」、ゴールディーはそう思った。


 だが「研究資料奪取」において認識を改めさせられた。「罠」だった。順調に行き過ぎて気が緩んでいた、ミッションに対してモチベーションが低かった事も事実だ。


 施設に投入した全員が殺れ、自らも襲撃された。面貌で顔を隠した、小柄で華奢な体格の「ニンジャ」二人に襲撃を受けた。


 運が良かったのは、「ニンジャ」達がこちらを捕らえようと銃器の使用を控えた事だ。でなければバンごと吹き飛ばされている。


 だが、戦った「ニンジャ」の腕は、やはり大したことは無かった。殺れなかったのは残念だが、一人に深手を負わせると引き上げていった。


「ケイサツ」が来たため、撤退せざる得なかった。が、「オフィシャル・クサカベ」からは、「状況報告と感謝」の連絡が入った。ミッションは「プランB」へ変更。直接「クサカベ」が資料を持ち出し、取引する事に成った。


 「クサカベ」の手のひらで、踊っているような錯覚に捕らわれた。「クサカベ」「ニンジャ」共に出し抜いてやりたかった。ゴールディーは頭の中でプランの細部を変更し、「クサカベ」自尊心を刺激する形で要請を行った。

 「クサカベ」は機嫌が良かったのだろう、嫌味を言われたが要請を承諾し、時間稼ぎと一連の手続きを手配させた。ゴールディーも満足した、これから騙す相手を利用するのは心地良い。


 シンジケートに細部をフォローさせ、必要な物を早急に揃えさせる。金は掛かるが得られる利益からすれば「端金」だ。


 勝手なプラン変更に叱責されたが、ゴールディーは過去の実績と、得られる成果をアピールし、上を承諾させた。


 際どいミッションだが「やりきる自信」はあった。プランを手に握った事でミッションに対するモチベーションが上がる。


 誰に認められたい訳でも無い。どんなに「糞の世界」でも、自身を燃え上がらせ、爪痕を刻むことが出来る悦びに、彼女は酔った。


 病院で「プロフェッサー・カトウ」拉致する計画は上手く行った。「カトウ」が負傷者に付き添っている事は知っていたが、その女を連れてくるとは思わなかった。


 いくつかの気になった点は在ったが、時間を無駄にしたくなかった。女は弱った様子があった、殺気を飛ばしてみても、反応はなかった。今は「カトウ」と共に捕らえ眠っている。


 だが、やはり気になった。痛い目を見たではないか、小柄で華奢な体格が、一晩前に手合わせした「ニンジャ」と重なる。


 ボクサーなら問題なく調べられるだろう、ゴールディーは優秀な部下を信頼した。

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