日常崩壊-3
なあ、加藤。先週、お前たちには茨城のJAEA核融合研究開発部門へ出張してもらったろ、、、」
いきなり話題を変えた日下部に、戸惑いながら返事を返す加藤。
「、、、ああ。だが何かトラブルがあったとかで、現場にも入れず、別の施設でシミュレーションだけやらされたよ。実験機を使っての実証実験は全くできなかった。一週間も何しに行ったんだか、、、」
思考が少し事件から離れることが出来て、言葉尻に研究者の愚痴がこもる。
日下部は加藤の心理を図りながら次の言葉を放つ。
「実はお前たちが出発したその日に、実験機の方でも今回と同様の事件があってな。」
「何だって?」
トラブルとしか聞いていなかった加藤は、声を上げる。
「本体のみならず、研究資料や設計図面、部品製作を発注した企業や下請けにまで盗難や破壊、傷害を含む物的、人的被害が及んでいるんだ。」
言葉の出ない加藤、日下部は続ける。
「同時多発的に関係する人、物、場所が襲撃を受けている。大臣も経産省もこの件で今、ゴタゴタしていてな。メディア発表を個別の事件で押さえて来たが、限界かもな。」
「外国企業がこの分野での「ブレイクスルー」を達成。2020年代に、小型核融合炉を通常兵器の動力源として搭載が可能だと発表したのを、覚えているか?」
「既に某国は、一発一発にコストのかかる実弾兵器に比べ、相対コストの低い熱光学兵器、電磁投射兵器の地上運用実験に入った。今度就航予定の海軍艦船はいわゆる「レーザー兵器」ってヤツを標準搭載予定だ、既に試験航海の段階に入っている。コレはSFの話じゃない。」
「小型で、効率的に大量の電力を生み出す技術は今、引く手あまただ」。
「、、ああ、、、同じ物を研究開発している身として、胸の高鳴りを覚えたね。同時に負けらないとも思ったよ。」
研究テーマの話が出たせいか、加藤の声音に力が戻る。
日下部は加藤の言葉に失笑する。
「お前のその他者の成功を賛美する素直さと、負けん気の強さがなぜ両立するのか解らないが、研究者を辞した身としては羨ましいよ。」
「お前だって、残っていれば同じ夢に挑戦できた。」
加藤は研究室を去った友に、少し批判じみた言葉を投げる。
「いや、俺はお前たちと一緒にやっていくのは無理だと悟ったから、研究員を辞めたのさ。」
日下部はキッパリとした口調で加藤に言う。
「それにこの手の分野はな、精通した知識と、計画の運用を説明できる役所とのパイプ役が不可欠だ。所詮金を出す、出さないを決めるのは夢の話では無く。それによって国家がどれ程の利益を得られるかに掛かってくる。」
「ここ何年か、ノーベル賞でも日本はこの分野の評価が高く。国際的にアピール力がある。つまりこのプロジェクトは、名実共に政府の「肝入り」なんだ。」
「何も日本に限った話という訳ではない。国も企業も、体面と利益を上げる為に日夜しのぎを削ってる。企業は研究の価値をアピールし、国は有望なテーマに税金を当て、後押しする。」
「実が無くても、可能性をアピールるするだけで企業の株価が上下するんだ。一般人が無関心過ぎるだけで、実態は巨額が動くマーケットさ。」
「そして金が絡めばなんとやらで、当然ごとく裏で色々とやらかす奴等が出てくる。」
日下部は役人の視点から、事件全体の補足説明をする。
「、、、映画やドラマじゃあるまいし。」
加藤も噂程度に聞きかじった事はあるが、関心は無い。日下部は加藤を揶揄するように続ける。
「お前の方こそ考え方がおかしいじゃないか?「米ソの冷戦」は確かに俺たちが学生の頃の話だが、「日本の戦後」ほど時間は経っちゃいない。」
「優秀な頭脳を狙った誘拐に暗殺。技術のスパイや売買は日常だった。「ココム」って単語、覚えてるか?対共産圏輸出規制。」
「昔は国が組織し、自国の利益のために率先してやってた事だが。体面や、予算や、民意の問題とかで、国家はそう言った事を今は、縮小、廃棄し、闇に葬り去ったはずだった。」
「だがそれは自我を持っち生残った。知的財産を標的に「金と暴力」で研究妨害、独占、売買するシンジケートは存在する。企業や個人、そして捨てたはずの国家までもが、それを利用しているんだ。」
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