日常崩壊-4

 「そいつらの、、、仕業だと、、、?」


 にわかには信じ難い。が、ストレッチャーに乗せられ、運び出され始めた遺体が、加藤に現実を物語る。


 「ああ。茨城の事件の前から情報は在ったんだ。昨夜報告がもたらされてな、夕べ会えなかったのはそのせいだ。こんな事に成らない様、セキュリティーも万全を期したんだが、、、、」


 日下部は、再び加藤に向き尚って顔色を伺う。話をするべきかどうか、思案している風を目で伝える。加藤は日下部の躊躇いに、胃に重い物を感じなながらも先を知りたがった。


 「「全て話す」、、、そう言ったな?」


 加藤の覚悟を確認した日下部は、別の事実で加藤に衝撃を与える。


 「ああ、そうだったな、、、、実は、内通者がいてな。」


 日下部は加藤を気遣う様に、一つ一つ、加藤の反応を見ながら言葉を続ける。


 「なっ、、、、」


 日下部は、次から次に、加藤が想像しない単語を繰り出す。


 「研究チーム副主任のリツコ君、マルドゥック警備のミサト警備主任が、シンジケートに内通していた疑いが出ている。多額の金が入金し、引き出された銀行口座の記録や、海外への旅行券、ビザや住居の手配記録といた物証が出て来ている。」


 「馬鹿な!」


 加藤は、出てきた名前に驚くよりも、ありえないと言う気持ちが勝った。


 「お前の気持ちは解るがな、加藤、現実を見ろ。整備強化したはずのセキュリティーが簡単に突破され、今までの研究成果が奪われているんだぞ。」


 日下部の言葉を否定する材料が見つからず、絶句する加藤。視線が思い出を追いかけるように虚空を彷徨い、身体を震わせながら両の拳を握り締める。


 にわかに、施設玄関が慌ただしくなる。


 警察が手を振り、ストレッチャーを運んだ救急隊員を招き入れ施設の奥へと消えていく。


 刑事が日下部の所にやってきて生存者発見の旨を告げる。


 「何だって?」


 日下部は「生存者」と言う言葉に驚いた口調で返したが、それまで固まっていた加藤は突然、施設に向かって走り出す。


 玄関から救急隊員により搬送されるストレッチャー、誰かが横たわっている。


 加藤の脳裏に親近者の名が浮かぶ ―――誰だ?リツコ君?ミサトさん?―――


 救急隊員の行く手を遮る勢いで駆け寄った加藤は、横たわる人物を確認した。


 「ルキノさん!!」


 ストレッチャーには昨晩、リツコともに、施設に残ったルキノが横たわっていた。


 「職員用の女子ロッカー室で、気を失った状態で発見されました。目立った外傷はありませんが、篭城によるストレスで、かなり衰弱している物と思われます。」


 目の前に躍り出て来た加藤に憤慨する救急隊員。だが親近者らしいと知って、説明する。


 「篭城?」


 聞き返す加藤。


 「ええ、彼女が発見されたロッカー室入り口は、中から複数のロッカーをバリケード代わりにして、堅固に封鎖されていました。」


 「犯人達が破ろうと試みたようですが、結果はたせづ諦めたようです。おかげで彼女は無事でした。」


 同行する警察官が、日下部に報告する。


 「行方不明だった特殊ケース3個が、彼女と一緒に発見されました。」


 警官の報告に、日下部は安堵と喜びの表情が一瞬垣間見える。そして負傷者をいたわる友に、すまなそうに言葉をかける。


 「すまん加藤、申し訳ないが俺はケースを確認しに行く。」


 「いや、いい。それがお前の仕事だ。俺はこのまま彼女に付き添って病院へ行くが、いいか?」


 責任者として、この場に残らなければならない立場だが、加藤はこのまま、ルキノの傍らにいて、何かしてやりたいと思う気持ちがあった。


 「ああ、とりあず今はそれで構わない。細かな事に煩わされる前に、やりたい事をやっておけ。」


 加藤は、ケース発見の喜びを隠せない日下部の様子が腹立たしかったが。立場を考えれば解らなくは無い。何より責任者として彼がこの場に居るからこそ、自分はルキノに付き添える。


 加藤は救急車で病院へ、日下部は国家財産の安否を確認すべく、警官を従え施設に向かう。加藤は一度振り返って友を見たが、日下部はまっすぐ足早に玄関へ消えた。

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