日常崩壊-2

 丑三つ時。雨雲が晴れた空に、月が冴え渡る。その下で、赤色灯を回転させた多数の車両が、施設正面玄関前に並ぶ。電源の回復した研究施設は、煌々と明かりをたたえる。


 周辺は「KEEP OUT」のテープが張られ、何事があったのか?今だ詳細のハッキリしない出来事の様子をリポートする報道関係者や、騒ぎを聞き付けた野次馬達を、必要以上に寄せ付けまいと、警察官が警備する。


 爆発で壁に飛び散った、破片に血肉、焦げ痕が残る廊下。ガラスが割れ弾痕が刻まれた研究室。施設内を刑事、鑑識、消防、救急隊員が忙しげに行き交い省庁の役人に施設関係者、警備会社職員が説明や対応に追われている。


 施設の敷地、警備室内及び出入り口、施設の玄関につながる廊下。血の付いた地面に、白い線で人が倒れた姿が描かれ、アルファベットの記号が書かれた小さな縦札が置かれた殺人現場を、鑑識がカメラで撮影していく。


 警官に身分証を提示し、テープを潜って飛び込んで来る加藤。


 施設玄関ホールには、今にも担架で運び出されんとする、袋に入れられ、並べられた13の遺体。ソレを目の当たりにした加藤は、呆然とする。何がどうなっているか?状況を受け止められない。そこに親友の姿を発見し、救いを求めるように叫ぶ。


 「日下部!」


 駆け寄る加藤。警察関係者と話をしていた経産省の日下部 十氏朗(くさかべ とうしろう)は、一旦話を打ち切って、駆け寄ってくる加藤へ振り返って迎え入れた。


 「日下部、一体何があったんだ?リツコ君にミサトさん。嗚呼、、、る、ルキノさんは無事なのか?」


 並べられた遺体袋を目の当たりにし、昨日言葉を交わした親近者の姿が浮かぶ。状況から推察しつつも、心の中で「どうか無事であって欲しい」と祈る気持ちで友に尋ねる。


 「加藤、昨日は呼び出しておいて顔が出せず、すまない事をした。許せ。」


 焦る加藤に対し、日下部は故意に話題をそらし、昨晩の面会約束を反故にした事を詫びる。


 「そんな話、今はいい。」


 声を荒げる加藤。だが日下部は、ゆっくりと友の両肩に手お起き、その瞳を覗き込むがごとく真っ直ぐ視線を合わせる。


 「お前の気持ちは解る。だが先ず落ち着いてくれ、頼む。」


 冷静な親友の言葉に、苛立ちを覚えつつも感情的になっている自分に加藤は気が付く。


 「、、、ああ解った。すまん、日下部。」


 「いや、良いんだ加藤。今、解っている事だけだが。隠さず順を追って、お前に話す。」


 全て話すと言ってくれる友の言葉に救いを感じながら、日下部の口調が淡々と落ち着き払っていることに、加藤は少し苛立ちを覚える。


 「遺体の袋を見たな。」


 加藤の避けたい話題から、友は切り込んで来た。だが、その情報は加藤が最も知りたかったモノだ。


 「、、、ああ。」


 加藤は覚悟決めて返事をする、日下部は加藤の顔色を見ながら話した。


 「昨晩、複数人の武装した強盗が施設に押し入った。セキリィティーシステムをハッキング、無力化して侵入し、警備員を殺害。研究データーを狙って施設内を家捜しし、居合わせた研究員を殺害した。」


 目を見開いて日下部の話を聞き入る加藤だが、どこか他所の国の出来事でも聞いているかのように、理解が追い付いて行かない。


 「が、何らかの事故があって、武装強盗が携行した爆発物が暴発し、犯人達も死傷している。」


 「、、、は?」


 話の流れが更に現実離れした為、思わず聞き返す加藤。


 「コントの落ちじゃ無い、事実だ。」


 日下部も、若干渋い顔で言い訳する。本人も口に出して馬鹿らしいのかも知れない。


 「警備員はともかく、所員があの時間に施設に居るとはな、、、、あの日は皆、疲れているだろうから。定時上がりで帰ったとばかり思っていた、、、、。」


 日下部の一言は、加藤の心をえぐった。日下部は一旦顔を伏せた、加藤に暫くの間を与えた後、話を続ける。


 「研究データ、及び重要な機器を納めた特殊ケースは、3つとも今だに行方不明。持ち出された可能性が高いが、状況も鑑み、現在施設内を捜索中だ。」


 日下部は刑事から聞き及んで、昨晩、施設内で起こったであろう出来事を、一部推測を交え語る。


 日下部は、加藤が事態を把握するのを待つ間。肩から手を離し、せわしなく動く人の動きに目をやる。そして、加藤が想像もしなかった「話」を語り始める。

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