隠忍自重-4

 硬く閉ざされた施設の正面玄関。その脇に設置された広めの一階平屋、コンクリート製の警備員室。


 昼夜2交替、一直を4人体制で施設の警備を行っている。と言っても、施設内ほとんどの出入り口が電子ロックでカードキーとパスワード入力必須。場所によっっては指紋認証や網膜パターンまで必要となる。


 所内随所に監視カメラが配備されており、それを警備室のモニターで監視。映像は独立型サーバーに送られ、AIが随時画像解析する。一定の異常は人が判断しなくても警報が出る仕組みだ。


 万が一に備え、有線、無線の警察への直通連絡回線。同様のモノが、本社連絡用にもある。


 警備員の装備自体は日本の法律に則り、いたって普通。仮にも銃器武装したテロリスト等を相手にする事は出来ない。非常時は施設が個々の防壁を落とし、スタンドアローンとなる。


 警備基本は侵入させない、一度入ったら逃がさない。賊に対して「遅滞防衛術」で対処し。賊を諦めさせるか、後続の警察力と本社からの応援で、侵入者を包囲逮捕が基本思想である。


 一週間前にメンテナンスも完了しており。コレまで特に、警備上の問題は無かった。


 「ん、、、、?」


 ミサトはモニターに人影が映ったと思った。が、モニター画像はいつも通りの裏口が映し出されているだけだった。 


 「主任、今日の弁当遅いですね~。」


 部下がミサトに「別の視点」で、いつもとは違う出来事に疑問をなげる。


 「ああ、雨が降って交通規制があったから、遅れてるんとちゃうか~。」


 ミサトは昨日までの天候と、出勤時の道路状況から。部下の問いかけに、もっとも整合性のある返事を返した。


 「主任、モニターどうかしましたか?」


 何時もと違うミサトの気配に、部下が問いかける。


 「今な、何か映っとたような?」


 お前は気が付かなかったか?のニュアンスを込めて、問いかけに答えるミサト。


 「ゴーストですか?おかしいな、週はじめにシステム全て点検して、異常は無かったはずですよ。」


 部下はミサトの質問に、見間違えでは?のニュアンスで答えた。


 「そう言えば、太田と柳田の二人はどないした?」


 気が付けば、今の時間は居る筈の部下2名の姿が無い。


 「それならチョット前に研究室から「施設の周りを、変な奴がうろついてるみたいだから、ちょっと見て欲しい。」って連絡があって、二人で確認に行きましたよ。」


 初耳の情報に驚くミサト。だが、まずは確認をとる。


 「監視カメラに、何か映っとったんか?」


 「いえ、特には。でもほら、茨城でも本体の方に事件があったでしょう。きっと先生方も不安なんですよ。」


 「特に大した出来事でも無い」と言った風に、返す部下。


 「まだ事件と決まった訳や無い、憶測でモノを言いなんな。で、連絡してきたんは誰や?」


 このアホがと心の中で罵りつつ、情報を集めるミサト


 「たしか、ルキノさんだったかな?」


 「ルキノちゃんやって~。」


 数時間前に、加藤と交わした「妙な会話」が脳裏を掠める。


 「ほら、去年来た「美人研究員」って噂の。」


 「噂しとんのはお前らだけや!!」


 「、、、ったく。どいつもこいつも、鼻の下伸ばしよって。二人して連絡も寄越さんとは、ホンマに腹立つわ~。」


 システムの恩恵の下にあって、緊張感が今一つ足りないのはやむを得ないが。業務の連絡体制を無視して、異性の話にうつつを抜かす部下に憤るミサト。


 「、、、まあ~ええ~。」


 職業意識が「憤り」を払拭する。ミサトは部下に向かって一声かける。


 「チョット気になるから中を見回りして来る。そろそろリツコ先生達にも、お帰り願わんといかんし。」


 人に任せ切りだった面を反省しつつ。不足する情報は、自分の足で補う事にする。


 「弁当の方は確認しときます。」


 何処までも緊張感の欠けるマイペースな部下に、苦笑しつつミサトは応じる。


 「ああ~わかった、夜勤の唯一の楽しみやさかいな~。「何処ほっつき歩いとんネン、こっちは腹減らしとんで~、早うもってきーやー」と、丁寧にお願いするんやで。」


 安全・安心である事に文句は無い、ちょっと自分が気を回し過ぎなら、それで良い。


 帽子を被り、腰の警棒、ハンドライトの点灯を確認して、警備室を出ようとするミサト。だが突然、室内の照明が落ちる。

 

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