隠忍自重-5

 


 警備員室では異常事態に驚きつつも、ミサトは的確な指示を出していた。


 「しゅ、主任。」


 「落ち着きや、直ぐバッテリーに切り替わる。非常ボタン押せ、直通で警察へ通報、本社にも連絡。」


 無線で外にいる警備員を呼び出す。


 「おおたー、やなぎだー。そっちはどない成っとる?状況をしらせー。」


 無線には、外に居るはずの警備員からの応答はない。


 「主任、、、、有線も無線も繋がりません。非常ボタンも反応がおかしい。」


 唖然とする表情で、状況を伝える部下。


 「そんな、馬鹿な、、、、。」


 今日まで手抜き仕事は一切してこなかった。想定外の事態に、ミサトのプロとしての自負が、この状況の理解を妨げる。


 次の瞬間、警備室のドアが外側から開かれる。ミサトと部下の視線が一斉に注がれる先に、人影が二人。


 「太田、柳田か?外の様子は?何が起こっとる。」


 ミサトは見回りに出た部下が、情報を持ち帰ったと判断して呼びかける。


 二つの人影は、呼びかけに応える様に「スッ」と何かを握り締めた両手を、ミサト達に向けた。


 警備員室から4度、弱々しい光が窓から漏れる。しばらくするとバッテリーに切り替わった電源が、施設に非常用照明を点々とつけてゆく。


 再び明かりの灯った警備員室。だが、人の動く気配は無なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る