始まりの週末ー3
施設の正面玄関、自家用車のウィンドウを下げならIDを見せる加藤。「マルドゥック警備保障」と書かれたネームプレートを付けた警備主任、須藤ミサト(すどう みさと)が近寄ってIDの確認する。
「教授、お疲れ様です。お帰りですか~。」
IDを確認しながら、ミサトは加藤に挨拶をする。
「ええ、コチラは激しい雨だったみたいですね、大丈夫でしたか?」
加藤は天気の話で、顔見知りの警備主任と会話を交わす。
「溢れた水で道路通行止めとか、出てくるのに難儀しましたけど、大した事はあらしませんでした。」
「偉い人」と言うより、「頭の良い先生」と言う物腰の柔らかい加藤の雰囲気が、ミサトは好きだった。
「ああ、ミサトさん。リツコ君とルキノさんが、もう少し残るそうなのでヨロシクお願いします。」
心配性の加藤は、ミサトにも残る二人が行き過ぎないよう頼んだ。
「解りました。は~、相変わらずリツコちゃんは仕事の虫やな~。」
個人的な付き合いもある女性研究員の性格を知るミサトは、苦笑交じりに溜息をつた。
「適当なトコロで帰るように、ミサトさんからも声を掛けてあげて下さい。」
「任しといて下さい。明日は3人で食事に行く約束してるんで~、日付が変わる前には二人とも叩き出します~。」
ミサトは私事を交え、笑顔を向けながら「頭の良い先生」の憂慮を気遣い、言葉を返す。
「3人?ああ、今度新しく来た、研究助手のルキノさんの事ですね。」
「は~、教授!!ルキノちゃん来てから、もう1年は経ってます。そういう所は、私が着任した時から変わらしませんな~、、、、」
ミサトは呆れると共に、ルキノは加藤の頭の中で、チームに次の人が加わるまで、ずっと『新しく来た人』なんだろうなと、彼女を少し哀れんだ。
「め、面目次第も、、、、」
同じ失敗を繰り返す自分に、赤面する加藤。ばつの悪い仕草の加藤を見ながらも、一つ、ミサトは思い当たるフシがあった。
「、、、、どうかしましたか?」
急に黙り込んで思案するミサトに、問う加藤。
「まあ~、なんと言うか、、、職業的カンとでもいうか、、、なんかあの子~、ちょっと変わってますやろ?」
表現する的確な語彙が浮かんで来なかったミサトは、感覚的な物言いで加藤に話す。
「そうですか?まだ新しい環境に慣れていないだけでは?大規模な国家プロジェクトに関わる研究チームに来るのは、初めてと言ってましたが。」
予想もしなかったミサトの質問に、小首をかしげ答える加藤。
「そうですね~、、、ここのオートセキュリティーは完璧やから、人間がする事は殆ど何もあらしません。余りに暇なもんで、つい他所から来た人をそんな目で見てしまうのかも知れませんな~。」
おかしな質問だったとミサトも自覚して、話をそらして打ち切る。
「はは、警備主任、しっかりして下さいよ。」
「すみませんな教授~。ほな、気い付けてお帰り下さい。」
二人は「妙な会話」を、お互い無かったことで流した。
「ミサトさん、では又、来週。」
最後にミサトに会釈して、施設を出る加藤。
他人を労わり、人の良い点をだけを見て周囲を接することが出来る加藤。
職業柄、疑って掛かることを常とするミサトにとって、加藤の性格が好ましかった。
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