内意識

ただただお茶を濁すだけの仕事が仮にこの世に存在しているのであればペテルギウスに眠る七色に輝く雨どいを伝って聞こえてくるあの冬の思い出に代表される切なさを君の心臓の鼓動に流し込む真似をして子供のように笑ったあいつに「美術展の目玉は何といってもごぼうと金目鯛ときんぴらもどきだよ、チャーリー」と手紙をしたためたついでに朝日に照らされた昨日について考えていたキリンが、骨折した鎖骨に雨の音を感じていななくのを、僕はただじっと見守るのが仕事であると上司がいうので生ごみにでいっぱいになった五トントラックを出来立てほやほやのダイナマイトで爆破させて、背中に背負った不動産会社をアルゼンチンバックブリーカーで殺そうと画策しているのがばれるのを恐れた振動する11次元の紐でしばれれたダニが言う「ジリリリリリリロリロロロジジロロロロロロロリリリッリ」はっとして起き上がったぼくに差し込む雨雲からぼんやりと差し込む朝日と安物の目覚まし時計から鳴り響く騒音が襲い掛かる。時間を確認すると午前5時45分。どうも一時間早く目覚ましをセットしてしまったらしい。ミスを責める気分と、もう一時間寝れる幸福感に挟まれて、僕は眠る。眠りはきっと浅いだろう。でも、眠りに入る瞬間の快感はどうもほかの言葉で説明しにくく、たとえるなら底のないふかふかのクッションに無限にのみ込まれていくようで、全身からほとばしる脱力のしびれは遠くを走る電車に乗った老人の一団が丁寧に会釈して、カラスたちの産卵を今か今かと待ち望む光景を、淡い水彩画で書き取る画家たちの頭上をはるかに見据えて広がる火災の被害者たちの悲痛な痛みへの非難と責任の所在に鋼鉄の扉を閉めた門番に群がる恐ろしくくたびれた老婆に似た子供たちと子犬たちの合唱団はドレミの音階を逆さまに歌い上げて、本を読む手を止めた教師たちの感動をもてあそび、公転速度で逆走する詩人の群れにただただ憐れみを感じる素粒子ととぐろを巻く蛇を、一緒くたにしないでくれと声を荒げたヴィトゲンシュタインが言う「ジリリリリロロロオオオオロロジリリッリリリリリリ」はっとして目を覚ます。眠った気が全くしない。時計を見ると五分しか進んでいなかった。スヌーズだ。僕は目覚ましをきっちり6時45分にセットしなおすともう一度布団に潜り込む。今度は夢もみなかった。

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