無次元
生きたいのに生きられない人に失礼だと思わないのと人は口々に言うけれど、死にたいのに死ねない人に対してはどう感じているのだろうか?人生とは苦行の連続だ。いつからこんなに生きることが辛くなったのだろう。アダムとイブにリンゴを食べるようそそのかした蛇を殺してやりたい。
ここには何もない。流行の洋服やおしゃれなカフェ、おいしいラーメン屋がない、なんてレベルではない。そもそも空間がない。広がりがないのだ。広がりがなければ空気も物理法則もない。この世界は閉じられている。
銀河横断船に乗っていた僕は、天川銀河に向かう途中で事故にあった。原因は積み荷の高次元エネルギーで、五次元空間から採取した高密度重力を三次元適応させた代物だったらしく、空間位相に入った亀裂から流れでた異次元の高周波が触媒となってこちらの宇宙に漏れてしまった結果、我々の存在した宇宙に上書きされる形でビッグバンが発生し、下敷きになった我々の宇宙は次元を失った。ほとんどの宇宙は消滅してしまったが、特異点の非常に近くにいた僕は”僕”を失わなかった。僕の体はなくなったけど、僕の魂は消滅しなかった。
理由はわからないけど、僕はここがどこかわかる。正確にはわからないけど、確かなことはここが狭間だってこと。次元を失った宇宙と次元を失わなかった宇宙の間。0.5次元とでも言おうか、物質的な存在は全く無い世界である。ただたまにかすかな気配を感じることがある。ぼくと同じような状態になってしまった生命体だろうか?気配は僕に情報の様なものをもたらす。例えば感情。怒りを携えてぼくを感化する。例えば快感。忘れてしまっていた、心地よい感覚を彷彿とさせるのだ。そんな時、僕はいつも喜ぶ。刺激のない世界のほんの少しの娯楽。ぼくもきっと誰かの娯楽になっているのなら相手は僕から何を感じ取るのだろうか?いつまで続くかわからないこの宙ぶらりんな思考は、永遠に存在する可能性という絶望に耐えられそうにない。だれか僕をたのむから消してくれ。たのむから。
異世界に転生した俺がどうやって生き残ればいいのかわからないけど頑張るしかないから悲しくても寂しくてもとにかく前を向いて生きていくの さささ 洋介 @shunsuk3
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