一つ目の巨人
「ガァ……!」
俺の目の前にいる生物……。おそらく、この醜悪な見た目からしてこれが魔物と呼ばれる生物なのだろう。
頭についた一つ目は獲物を見るように俺をずっと捉え、口元は思わずにやけているのではないかと錯覚するぐらいに歪んでいる。
「マルツェル……!」
一つ目の巨人が握っている血を浴びた大きな刀……。マルツェルはあれに斬られたっていうのか。
人の骨さえ一気に斬ることのできるその力に、俺はただただ立ち尽くすことしかできない。
しかし、なぜ俺はこんなに落ち着いていられるんだ?
目の前で友と呼んでもいい存在を殺されて、武器も持たず、ましては魔法も使えない俺がどうして、強大な力を持った魔物を前に落ち着いていられる?
死を悟って動かないだけか? それとも、何かを考える事で目の前にいる恐怖から逃避しようとしているのか?
――違う。俺は知っている。
戦いという物を。生死を賭けて戦う事を。己の命を賭して行う命のやり取りを。
だから、こうして敵として認識した対象を観察し、相手の情報をより知ろうとしている。それから、相手のパターンや行動を分析し……確実に仕留めるんだ。
奴の視界はあの一つ目に限られているはず。ならば、あの目を潰す方法を考えなければ。あの一つ目を潰しさえすれば、こっちが有利に事を運べるはず。
だがしかし、奴は俺の行動を悠長には待ってくれない。
右手に持った大刀を大きくなぎ払い、俺の首を一直線に狙ってくる。
これを喰らえば、待っているのは死だ。避けなければ……!
大きな轟音を放ちながら出された一撃。それをなんとか回避することができた。
……このまま防戦一方となると少々、分が悪い。このまま時間を稼いで、誰かの救援を待つのも無理な考えだ。
生み出せ、巨人に一撃を与える手段を。
!……マルツェルが帯刀していた細剣がある。
巨人の肉体を切り刻むことは不可能だが、あの目にこいつをぶっ刺せば、かなり効果的なダメージを与えられるはず。
ならば、今すぐあの剣を手に入れる――。
「――!!」
な、なんだこれは……!! 体が重くて動かない……!!
まさか、これはあの一つ目の巨人が魔法を使ったっていうのか!?
巨人の大刀の先から出ているオーラ……! あれが魔法……!?
このままだと斬られる……! くそ、こんな所で……!
俺は奴を殺さなければ! 奴に復讐をしなければならないんだ……!
こんな所で、死ぬわけにはいかねぇんだよ!!
『――。あなたは生きて……!』
――――。
<<目覚めよ、龍の血よ――>>
<<覚醒するのだ。我が黄金の力を手にし者よ――>>
「うおおおおおおおおおお!!!!」
力が、漲る。
体が、気力が、滾る。
<<――行け、黄金の力を以って奴を駆逐するのだ!>>
一つ目の巨人の魔法を容易に抜け、再び奴と相対する。
巨人の顔はさっきのにやけ顔とは違い、何が起きたのかが分からないといった、ただ困惑ている表情だ。
俺自身、何が起きているのか分からない。しかし、巨人を圧倒できる力を手に入れた今、俺がやるべきことは一つ。
マルツェルの死体から細剣を手に入れた俺は、剣を構え――奴の一つ目を横一閃に斬る。力を手にした今なら、この細い剣身でがマルツェルの首を落とし、体を真っ二つにした様に、あいつの頭を真っ二つにしてやれるはず……!
間合いを一気に詰め、喰らわせてやる……閃光の一撃をっ!
「喰らえ、巨人――!!」
何の変哲もない細剣から放たれた剣撃は、周りの木々をなぎ倒し、豪雷のような音を響かせ――。
「ウガァァアァァァァァァァァ!!!!」
一つ目の頭を、両断した。
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