第3話

 シェイドside


「「頼みたいこと?」」


 オレとレイは声をそろえてエリアに聞き返した。

 普段エリアはめったに自分から何かをして欲しいなどとはいわない。気がついたら全部自分で出来てしまっている。そんな感じの奴だ。要領が良いのだ。

 そんな奴がオレらに頼み事をするというのは覚えている限り初めての事だった。


「うん…。実はこの間皆で街の方までお母さんにナイショでお散歩にいったの」


「それは本当かエリア。いいなぁ、僕たちも誘えよな」


「レイだけならともかくシェイドもとなると五月蝿いじゃない。でね、その時、この孤児院の近くのある場所から何かの動物の鳴き声を聞いたの。その声がとっても弱々しくて…。そこであんたたちに頼みたいのよ。何とかしてこの動物を助けてあげて。お願い」


「おい、五月蝿いってなんだよ、おい」


 エリアは珍しく悲しそうな顔をしていた。オレが言ったことをスルーしたけど。スルーしたけど!

 止めろ相棒。その優しそうな目を止めろ。止めろったら止めろや!


           閑話休題


 で、依頼の話だ。


「つまり、その動物らしきものを助けてあげればいいわけだ」


「うん…それはそうなんだけどね。やっぱりその子を飼っちゃダメかなぁ。やっぱりお母さんが許さないよね」


「そりゃそうだろ。オレは逃がしてやるのが一番いいと思うぜ。野生の動物は野生で生きるべきだろ」


「シェイドは黙ってて今レイと喋ってるんだから」


 解せぬ。いくらなんでも酷くないか?オレを置いていって話は進む。


「シェイドの言ってることも正しいよ。でも、もし野生の動物でなくて、首輪をつけていなかったら母さんに頼んでも良いんじゃないかな。その時は僕も頼んであげるよ」


「レイ…ありがとう…!」


 突然だがオレらのコンビには幾つかの掟がある。それはオレらが作った鉄の掟だ。


 一、仲間を見捨てない(たとえケンカしてても)


 二、頼まれたら何でもやる(悪いことはしない)


 三、努力を怠らない


 四、誰かを泣かせない


 この四つが我らがコンビの鉄の掟。

 そして今回は三と四に抵触する。オレらとしては見過ごす訳にはいかなかった。


 あとは決め台詞を言うだけだぜ!


「分かった。その頼み絶対に叶えてみせる!」


 さぁ、クエストを始めよう。





 シェイドたちが子っ恥ずかしいことを言っているすぐ近くの木陰に一人の女がいた。その女は少し面倒臭そうな雰囲気を出しながらも口許には笑みをたたえこう言った。


「これだからガキは…。でも、息子たちの成長を見守るのも保護者の役目かねぇ」


 その声の主は一陣の風が吹いたかと思うともうその姿は見えなくなっていた。









 夜、シーナかーちゃんが寝たのを確認して、オレらは日々ちょっとずつ作っていた木刀を持って孤児院を出た。


 この木刀はオレのが黒色、相棒のが白色だ。材料にはそれぞれクロカバ、シロカバと言われる木の枝から作った。材料となる木は相棒と町を散策していたら見つけたものだ。

 作っているのを見られたら即座にかーちゃんに没収されるので、これは三代目になっている。

 どんなに作るのが大変だったか…。

 

 そんな事を話ながら歩いていると、エリアのいった場所に入れるマンホールを開け、中に入ってゆく。

 お気づきだろうか。エリアの言っていた場所は下水道だったのだ。

 もちろん中は強烈な臭いがするので、初級ポーション、ファブリーゼを使う。このポーションは飲むと臭い匂いだけ感知しなくなるポーションだ。昼のうちにエリアに買ってきてもらった。


「思ったよりもジメジメしてるな。しかもこの匂い。ホントにその動物ここで生きてんのか?」


「分かんない。けどエリアが聞いたって言ってるんだ。たぶんいるだろう。さっさと見つけてエリアを喜ばしてあげよう」


「そうだな。かーちゃんにバレる前に戻らないとだしな」


 オレらは喋りながら一本道の下水道を進んでいく。

 

 しばらく歩くと、どこからかともなく、クゥーン、クゥーンという鳴き声が聞こえてきた。

 急いで鳴き声が聞こえた方向へむかう。今聞いた声はとても弱っているように思えた。だから急いで近づいたのだが…。


「あれ…?何もいない…」


 何となく嫌な予感がする。木刀を作っているときにかーちゃんが近づいてくるような感覚。


「相棒、気をつ……!」


 けろ、と言いたかったのだが、それは無理だった。



 

 なぜなら瞬間、光を反射する獣の目を見たと思ったら、太ももが一部食いちぎられていたからだ。


「うがぁぁぁああああああああああ」


 オレの絶叫が響く。視界が赤に染まって行く。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。いてぇ。


 どこからか相棒の叫び声が聞こえた気がするがよくわからない。血がドバドバ出ていき、意識が朦朧として行く。そんな中オレは相棒に逃げろと言おうとして、目を見張った。

 相棒がこんなことを言ったからだ。


「ぼ、僕が相手だこの化け物め!相棒は誰にも殺させやしないぞ!」


 その声はやけに明瞭に聞こえた。オレは一気に覚醒した意識で何とか痛みを耐え、大声で叫んだ。


「相棒!もういい!オレのことはいいから早く逃げ…「うるせぇ!」な!?」


しかしその声は他でもない相棒の手によって遮られた。相棒は続ける。


「鉄の掟その一!仲間を見捨てない、だ。自分で作っといて忘れてんじゃねぇ!僕らは絶対に二人で帰るんだ!」


 何かをオレは言おうとしたが、言えなかった。なぜならそう相棒が言った一拍後、狼が動いたからだ。奴は素早い動きで相棒の回りをぐるぐると回り、様子を伺う。そして突然相棒に向かって突撃し、相棒は一気に壁際に叩きつけられる。狼は素早い動きでに相棒のすぐ目の前にいき、その大きな口を広げる。その口に相棒は木刀を挟ませ、勝負は均衡状態になった。いや少し違う。ミシミシと音をたてる木刀。それはいまにも折れそうで、確実に相棒に死は近づいていた。後一手、あと一手が必要だった。


 

 遠のきそうな意識を無理やり覚醒させ、オレは自分自身に語りかける。

 友を助けられなくて良いのか?

 怪我がそんなに大変か?親友を助けられないほどに。


「…ちがう」


 だろ、なら動け。男なら走れ。一直線に!


「うおぉぉぉおおおおおおおおぉおおおぉぉぉぉおおおおおおおお


 太ももが気絶しそうなほどいたい。だが、知るもんかそんなの。

 走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ。

 足を動かせ。目標まで一直線に。


 全てをかけろ。その一撃に。

 

 その瞬間、不思議な事が起きた。木刀に何かモヤがかかったように見えたのだ。よくわからないがオレは全体重を込めた一撃を放つ。


「くたばれェェェェェエえええぇぇええええ!」




 オレの渾身の一撃は無防備な狼の頭に直撃し狼は音をたてて倒れ…なかった。





 直後、ギロリと怒りの眼差しをこちらに向ける狼の体当たりを受け、オレは吹き飛ばされた。


 その狼はさっきまでの狼とは風貌が違った。

 先程までは普通の灰色の毛をしたオレらより少し大きいぐらいのサイズだったものが、オレらよりも二周りほど大きくなっていた。


「し、身体強化。ま、魔物だったのか」


レイが呆然と呟く。レイも全身血だらけで何故立てているのか分からない状態だった。


 魔物。

 それは、体内に人間と同じように魔力をもつ獣のことだ。体にある魔石が特徴で、倒したら灰になるが、魔石と希に体の一部をドロップさせる。ただ、戦闘能力が高く、初心者の冒険者はまず倒せない。


 そんな存在が何でここに…。


 万事休すか…と思われた時、その声は聞こえた。

 その声は聞きなれており、なおかつ最も安心できる声であった。


「たかがグレイウルフごときがアタシの息子達を傷つけようとすんじゃないよ。身の程弁えろ。駄犬が」


 かーちゃんが、来た。色々疑問は湧くけれどただ、かーちゃんがきたという安心感がでかすぎる。


 そこからは、あっという間だった。


 かーちゃんの出した電撃一発でグレイウルフは灰になった。



「エルフ舐めんな」



 そう一言呟くと、かーちゃんは直ぐに駆け寄ってきて、怪我を治し、拳骨を一発食らわせた。そのあとオレらの頭をグシャグシャと撫でると、オレらを担いで帰った。

 道中かーちゃんは何も言わなかったけど、担いでいる体から色々なものを感じた。


 そして………。












「相棒、強くなろう。誰にも負けないぐらいに」


「そうだね…強く、なろう」



 オレらは一つ約束をした。





 to be continued

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