第6話 二度目の異世界
「お帰りなさいませ、英雄たちよ」
落ちてきた場所は地上に戻る門の前。先程の声は案内人の声であった。
紳真は足で着地を決めたが、二人はどしんとお尻で着地。これは感覚の問題である。あと数回もすればできるようになるはずだ。
案内人に見送られて外に出る。
紳真は歩きながら二人に話しかける。
「前に話したけど、この世界には二十二の都市があり、五つの層を踏破するとその都市の王になるっていうの覚えてる?」
「もちろん。未だ七つの都市しかクリアできてないんでしょ」
「そうだ。そしてこの十の都市はまだクリアされてない。だからこの都市をクリアしよう」
「ま、当然ね」
「やるからには頂点とらないとね」
意外にも強気で食い下がってきた。
「そんなに簡単じゃないんだ。そもそも三人じゃ二層が限界だ」
「そうなの?紳真君がいれば余裕そうだけど」
「無理だ。四層までは十人でいけたけど最終五層だとその都市にいる人全員いたからこそ攻略できた。到底三人じゃ勝てない」
紳真はその道の大変さを分かっていた。
「さすが高い地位にいるだけのことはあるね。でもそれってどの位なの?」
「王の次に高いところ。で、攻略するにあたって第一にすべきはコミュニティを作ることだ。そうしないと魔の部屋に入れないからね」
魔の部屋とは街のどこかにあるモンスターの住処に繋がっている建物のことである。それを一つ一つ踏破していくとフロアボスと呼ばれるモンスターがいる建物、層怪宮が出現する。それを倒すと上の層にいくことができる。これを繰り返すと最終ボスと戦い、王となる。
「では今向かっているのはその手続きを行うところですか?」
「紗優ちゃん、よくわかったね。そう、今向かっているのは集会所。そこで住民登録もしてもらう。で、そのあとに武器屋行って好きな武器を買う。だからギルドの名前とどんな武器を使いたいか決めておいてね」
「え、それを今言う!何も考えてないよ」
美卯は紳真の足を蹴ると真剣な顔で考える。
「ついでに言っておくと自分の名前も決められるから」
言うのが遅い、と二人に殴られ蹴られ罵声を浴びせられた。
集会所は他の建物と様式は同じだが大きさは五倍ある。それだけ人の出入りがある所なのだ。
集会所に入ると美卯曰く二十七人いた。
受付に行くと受付嬢が一人立っていた。
「住民登録とコミュニティ開設に来ました」
「わかりました。まず住民登録をしますね。アルカナカードを出してください」
美卯と紗優は言われた通りカードを出す。
「あれ、紳真君は出さないの?」
「ああ、第六都市の登録を消したくないから。それに住民になるならないは大差ないから」
二人はいちよう納得してくれて、受付嬢にカードを渡す。
受付嬢は手続きをするため、裏に消えていった。
「説明しておく。カードは表と裏がある。当たり前といえば当たり前だが。それで表には絵柄が、裏には住民になった都市の番号とコミュニティの名前と旗が映る」
紳真はカードを出し、二人に見せる。表は【審判】の絵が、裏には数字の6にコミュニティ名【千刃の一剣】、鬼の紋様が彫られた盾と盾の後ろに二本の剣が交差に刺さっている旗の絵が映る。
「この旗かっこいいね。コミュニティ名って何でもありみたいだね」
「ああ。でも既にある名前や旗は使えない。といっても被ることなんて滅多にないから」
「旗どうするの?コミュニティの名前だって決まってないし、それに合わせて作るべきでしょ」
「コミュニティ名は決まっている」
美卯は胸を張って力強く言った。
「でも旗どうしよっか」
対照的に溜め息をついて弱弱しく言った。
「旗はいつでも作れるし、変えることもできる。ただし、名前は変えられないから二人で相談して決めてね」
そこで受付嬢が裏から出てきて二人のカードを返却した。
「続いてコミュニティの登録ですね?この紙にコミュニティ名と無くても構いませんが旗の絵を書いてください」
美卯はペンを取り、コミュニティ名を書いた。
「おい、勝手に書くな。話し合えって言っただろ」
「いいんですよ、これで。美卯の決めたことにケチつけても取り入ってもらえないですから」
何かを悟ったように言う紗優。紳真はそういうことなら、と諦め、紙に書かれたコミュニティ名を見る。
【彗星の煌輝】。
目一杯輝こう、誰よりも強く光ろう、そんな意志が多大に含んだ名前。
美卯がこんな名前を付けたのにはちゃんも理由がある。彗星は太陽の周りを数年かけて一周する。中には数万年もかかるもの、一度しか回れないものもある。そして地球からそれを見れるのはほんの数日である。自分は希少な存在であると謳っている。だがそれだけではない。彗星は尾を引いて動いている。その姿を見て、日本人は箒星とも呼んだ。その姿は自分を理解してくれる人、賛同してくれる人を想起させる。彗星を自分とみなすと、尾は自分の後を追いかけてくれる人。だから自分は頂点であると謳っている。また彗星は塵を振りまく。それが流れ星の一部になる。彗星を自分とみなすと、自分が土台になって新たな光を生み出す存在となる。このような複数の願いを込めて彗星を選んだのだ。
煌輝にはとことん輝きたい、強くありたいという思いが込められている。
美卯らしい名前である。
紗優も気に入ったようでこれで登録をする。
コミュニティに所属するには自分の名前をコミュニティの名前を書いた紙に書かないといけない。この名前はなんでもいい。本名でなくてはならないという規律もない。
それを教えると美卯が
「紳真君はなんて名前にしたの?」
と聞いてきた。
「そのまんま紳真だ」
すると面白味がない、と理不尽にも怒られた。
ほとんどの人が本名の下の名前を使っているのを倣って、二人も下の名前で登録をした。
「紳真さんは登録しないんですか?」
紗優が結構本気の眼差しで聞いてきた。
「うん。二つのコミュニティに所属することはできないんだ。さすがにあっちのコミュニティを抜けられない」
美卯と紗優の名前が書かれた紙を受付嬢に提出する。登録されたのを確認すると魔の部屋について尋ねた。
受付嬢は都市の地図を出してきて話を始めた。
「今までのところ見つかっている魔の部屋の数は三つ。全て攻略済みですが、まだ層怪宮は出現しておりません」
魔の部屋には赤い四角のマークが付けられている。
「俺の経験則から言えば、一層での魔の部屋の数は五つ前後。最低一つは探し出さないといけない」
「どうしたらこの建物は魔の部屋だ、ってわかるの?」
「入るのが一番わかりやすいが危険も伴う。初心者は基本こうするしかないが、俺レベルまでくれば魔力が見えるようになる。でも魔の部屋でなくても魔力を発する建物も存在するから最終的には入らないといけない」
魔力を発する建物は例えば訓練所や神殿、紳真たちのような来訪者が多くいる建物などだ。
以前に訓練所の場所がわかった理由の一つでもある。
「結局はしらみつぶしになるわけだね」
紗優はがっかりしたように言った。
「心配しないで。もう目処はついているから」
紳真が自信たっぷりに言った。二人は不思議そうな顔をしているが、別に何も言わない。
地図をもらい受け、集会所を出る。向かうは集会所から北へ二〇〇mの魔の部屋。ではなく鍛冶屋。
美卯と紗優の武器を買っておかなければならない。
二人はブーブー文句を言っていたが武器を見るなりテンションが上がっていつの間にか店の奥まで入って行った。
店にはほとんどの武器が揃っているが、紳真からすればガラクタの集まりだった。紳真の得物は最高級の武器なのだから。
これが良い、と持ってきたのは美卯はレイピア、紗優は弓であった。
それぞれが良いと思ったものに紳真に拒否権はない。紳真にできることはお金を払うことだけだ。
武器を買うこともできたので、後は魔の部屋に挑戦するのみである。
魔の部屋に着くと美卯と紗優は緊張した面持ちで扉を睨んでいた。
紳真は最終確認をする。
「もし危険を感じたら後退しても構わない。本当に危険だったら俺が助けに入るから心配しなくていい。それと俺の指示の通りにしてくれ。危険に晒されるのは二人の方だから。それがわかったら探検を始めよう」
二人は頷く。さすがに美卯でも好き勝手できる余裕はないだろう。
紳真は扉を開く。強烈な風が吹き出し、同時に吸い込まれる。
こうして三人は魔の部屋に挑戦するのであった。
真っ暗で何も見えない。
「火の妖精」
術者の周りを浮遊する火の玉を発生する魔法。これで数m先まで見えるようになった。
連れてこられた場所は洞窟のようだ。天井から落ちる水滴の音が響く。
進む道は二方向。どちらも行き止まりということはないようだ。
進む方向を多数決で決める。自分基準で左と決まった。
そうと決まれば早速移動する。
歩くこと五分。突然開けた場所に出た。その瞬間、モンスターが溢れ出てきた。
「戦闘態勢を取れ」
紳真の掛け声で武器を構える。
「焦土の地の尽きぬ炎よ 我が身に宿り 薙ぎ払え―――炎帝の息吹」
近寄ってくるモンスターを飲み込み、燃やしていく。
たった一撃で見えるだけのモンスターを灰にした。
「気緩めるな。どんどん湧いて来るから」
紳真の言ったとおり、モンスターは制限なしに出てくる。
美卯はレイピアでモンスターを貫き、紗優は後ろから弓を放つ。
「いいよ、その調子。俺もちゃんとやりますか」
紳真はモンスターの死骸に魔力を込める。すると十八体のモンスターが光り始めた。その光が徐々に伸びていき、発していた光が線となった。この光景を上から見れるとしたら、歪ではあるが六芒星が三つ見ることができるだろう。
「召喚魔法―――鎌鼬」
光が一点に集まり、そこから尾が鎌になった鼬が召喚された。
鎌鼬はまっすぐにモンスターに立ち向かい、尾を使いモンスターを引き裂いていく。
「二人とも今のうちに特殊魔法を練習してみようか」
二人はその言葉に従い、武器をしまい、魔法を使う。しかし規模で言えばまだまだ小さい。だからこそ、紳真は練習しようと言ったのだ。
紳真と訓練では一〇〇%の力を出そうとはいないだろう。しかし相手がモンスターなら、場所が戦場なら自然と本領を発揮できるだろう。一番の成長はやはり、実践経験であるから。
鎌鼬は壁の役目を果たし、後ろから美卯と紗優が魔法を使い、モンスターを着々と倒していく。
紳真はというと、次の攻撃を考えていた。鎌鼬はずっといるわけではない。攻撃を受け、ダメージが一定以上溜まると消える。それはもう間もなくである。
現在のように二人に魔法を使い、前衛を紳真が担当する方法が一つ目。紳真が大魔法を使い、一瞬で全滅させるのが二つ目。
悩んでいるうちに鎌鼬が一体消えた。間もなく他の二体も消えるだろう。
美卯と紗優を見る。どちらも必死に応戦している。汗が流れ、息が上がっている。
続けるのは酷だと判断し、詠唱を始める。
「荒山の土の暴君よ この地に顕現し 猛威を振るえ―――土の針山」
迫ってくるモンスターの足元の土が隆起し、槍のように鋭くなり、モンスターを貫く。それは天井にも刺さり、動きが止まった。そして何の音もしなくなった。
「終わったの?」
「うん」
紗優の問いかけに頷く。
「って、どうすんのよ。通れなくなったでしょう」
美卯が紳真を殴って叫ぶ。その声は洞窟のなかで反響する。殴られ、耳元で叫ばれたので頭がくらくらする。
「そんなに怒んないでよ」
「じゃあ、この後どうすんのよ。通れないよ、あれじゃあ」
美卯の言うことは事実である。が、そんなヘマをするような紳真ではない。ちゃんとその先を見据えて行動している。
「照らせ」
火の玉がもう一つ発生して、道を塞いでいる土の間を上手く通り抜け、十m先で止まる。
「あそこ空洞になってる」
紗優は目を凝らして、そう呟く。
「そういうこと。俺はちょうどあそこだけ魔法が起こらないようにした。これで先に行けるだろ」
「いやいやいやいや。どうやってあそこまで行くの?」
美卯は全力で否定する。
「それがあっちに行けるんだよ。さて、ここで問題です。どうやって行くでしょうか?」
焦らすつもりはなかった。しかし頭が悪いので少しいじめてみたくなったのだ。
一分時間を与えたが、悩んでいる表情はいつまで経っても変わらなかった。
「時間切れ。では正解を発表します。手を出して」
紳真の言う通りに二人は手を差し出す。紳真はその手を掴む。
「では、正解は―――飛べ」
紳真は空間移動の魔法を使った。一瞬で火の玉の前まで来た。
「そっか。この手があった」
紗優は呑気に言う。
「なんで私はこんな簡単なことに気づかなかったの」
美卯は壮大に嘆く。
対照的な二人に頬が緩む。もう二度、空間移動をして脱出した。
答えられなかった罰として二人をデコピンの刑。
「この世界は頭が悪いと生きていけないよ。次の手、次の手を考えながら攻撃する。それが上手い奴がこの世界で頂点を取れる。俺が最初に出した魔法。あれはただ攻撃力が強いから選んだんじゃない。発動するまでにかかる詠唱時間、その後の発動時間、それと扱いやすさ。そうすることでモンスターを自分の望む位置で倒せた。そして次に発動する魔法を速く出すことができる。例えば紗優ちゃんは弓使っているだろ。俺の知り合いは矢で相手を狙っているにも関わらずそれで魔法陣を作ったりもしている。これは相手の動きを完璧に操っているからできる芸当で、俺だってやろうと思ってできるものじゃない。そこまでやれ、とは言わない。でも、さっき質問した、どうやって出るか、くらいはさっと答えて欲しい」
二人は叱られしゅん、としているが、切り替えが早い紳真は先頭を歩いていく。
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