第3話 初めての魔法

街には訓練所がある。このように街の中にはいろんな施設がある。

歩くこと十数分。訓練所を見つけた。

中に入ると受付がすぐにあり、そこの人に話しかける。

「あの、どこが空いてますか?」

「五部屋しか使われていないので、お好きなところどうぞ」

「そうですか。もう一つ聞きたいのですが、ここは何の都市ですか?」

どうしてそんなこと聞くのだろう、と不思議そうに首を傾げてながら答えてくれた。

「第十の都市【ニュウ】ですけど」

「ありがとうございます。では一室貸していただきます」

紳真は奥の奥まで進み、十二と書かれた部屋に入った。

「ねえ、徳松君は前からこのこと知ってたんだよね。どうして黙ってたの?」

「言っただろ、危険だからだよ。こんなところに関わらずに生きていた方が幸せだ」

紳真はカードを出し、壁に付いている機器にかざした。扉に鍵がかかり、使用中となる。

部屋は真っ白な床、壁、天井。大きさは二十m四方。

紳真は初めに魔法についての説明をした。

「魔法には四段階DからAまである。上に上がれば強い魔法を使えるけど発動条件や魔力消費が多くなる。D級魔法はさっき見せた《ファイヤーボール》がその一例。D級魔法は魔法名を言うだけで発動する。だから発動時間が短く、魔力の消費も少ない。試しにやってみたらどうだい」

二人は困惑している。ただ理論を説明されただけでできるはずがない。しかし紳真はそれ以上何も言わずに期待の瞳で二人を見ている。

美卯は半信半疑で紳真の真似をして唱える。

「ファイヤーボール」

紳真と同じく前に掲げた右手から火の玉が飛び出る。直径十㎝程度の大きさだったが確かに発動できた。

それを見た紗優も美卯と同様のことをする。

「すごーい。ほんとに魔法が使えてる」

美卯と紗優はハイタッチをする。

「魔法を使えるようになるには一度その魔法を見るか、魔導書を読むことでできるようになる。試しにいくつかの魔法を教える」

紳真は五系統をそれぞれ五つ教えた。

「ねぇ、質問。なんであたしたちと徳松君の魔法の大きさが全然違うの?」

美卯の質問は初心者に最もよく聞かれる質問の一つだ。紳真が発動した《ファイヤーボール》は半径五十㎝。しかし美卯たちのは直径十㎝。同じ魔法なのに違う魔法のように感じるのだろう。

「それは魔力の使い方に違いが生じている。二人はまだうまく魔法を使えていない。魔力から魔法になる効率も低いし、魔力の込め方も当然だができていない。俺から言わせれば当然のことだ。俺はここに一年近くいるから、必然的にうまくもなる」

二人は納得したようになるほど、と頷く。哀しそうな顔から安心した顔になっている。

「C級魔法について説明する。C級魔法は唱詠が必要になる。時間もかかるし魔力も消費する。慣れないうちは複数人いるときに使うようにすること」

念入りに釘を刺す。唱詠中は動けない。経験を積めばできるが、何年もここにいる者ですらときどき発動しないこともある。

「一つ見せる。―――無形から有形へ 地から轟く棲源よ その身に命を宿せ―――土人形」

部屋の真ん中に高さ五mの土の巨人が一体現れた。

美卯は感激して目を輝かしている。

「二人に土人形を倒してもらう。ただし、今教えた魔法じゃ倒せない。ならどうする?」

「どうやって戦えばいいのよ」

美卯は怒り、紳真に向かって魔法を発動する。紳真は空間移動で美卯の後ろに立つ。

それを見た紗優はポンッと手を打った。

「そっか、私たちの特殊魔法は攻撃的な魔法だから、それを使えってことかな」

頭良いね、と美卯は紗優の頭を撫でる。

「で、どうやって使うの?」

「自分で考えな。俺だってすぐに使えるようになったわけではない。ほら、とりあえず攻撃してみろ。攻撃しないようにしとくから」

美卯は早速攻撃する。紳真の悪口を言いながら。紗優はそんなことはせずに、淡々と魔法を発動する。

しかしいくら攻撃しても土煙が出るだけで傷一つついていない。時間が経つにつれ、美卯の悪口が苛烈になる。

そんなときだった。


『あーあ。こんなのがあたしの本体とは嘆かわしいわ』

 突然どこからか声が聞こえた。

「誰?」

と叫んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。だがそれは一瞬で、美卯は高い塔の上に立っていた。

「これは……なんなの?どこなの?」

『アハハハハ。周りをよく見渡してみなさい』

美卯は視線を上げた。

そこは砂漠のように一面砂で、自分のいるこの塔以外に建物はない。そしてその塔は三十mはありそうだ。なにより恐ろしいのは四方八方から迫り来る大きな竜巻だ。

またあの声が響く。

『やっとわかったかしら。さあ、あたしは何をしなくちゃならないのかしら』

「ここから出る。皆のところに戻る」

『あら、どうやってここから出るのかしら。そもそもあの竜巻に飲み込まれたら死ぬわよ』

「そんなことない。あたしは貴方に屈しない」

美卯はこの謎の声のことをわかっていた。聞き間違えるはずがない。なぜなら美卯の声だから。

そしてこの場所は前に見たとある絵画の一つ。美卯にとって一番印象に残った絵。

だからこれは美卯が求めた世界。美卯だけの世界。そう、これは美卯の心の中なのだ。

美卯は頭に浮かんだ言葉を高らかに叫んだ。

「風雷神の凶宴」

塔の周りに竜巻が発生する。向かい来る竜巻より大きく、あっちこっちで雷の落ちる音が聞こえる。

「全てを蹴散らしなさい」

竜巻同士がぶつかり合い、向かって来る竜巻が霧散する。

『あら、やるじゃない。これなら心配なさそうね。いってらっしゃい、愛しのあたし』

声は遠くなり、静寂が訪れる。

突然目の前が白くなった。


目を開けると紗優は土人形に向かって攻撃していた。紳真を見ると動いた感じはしない。時間は一秒たりとも進んでいないらしい。

美卯は右手を出し、さっき得た魔法の名前を口ずさむ。

「竜巻」

右手から発生した風の渦は土人形に向かっていく途中で大きくなり、土人形を壁まで押し飛ばす。

「すごーい」

紗優は美卯に賞賛を送る。

そんなときだった。


『浮かれてる暇ないよ。美卯に先を越されているじゃない。だめだめな本体ね』

突然どこからか声が聞こえた。

「だ、誰?」

その瞬間目の前が暗くなった。しかしそれは一瞬で、紗優は大きな城のバルコニーに立っていた。

「ここは……どこ?」

『さて、どこでしょう。少なくとも安全な場所ではないわ』

丘の上にどんっと居座る城。そこに向かって何千何万もの人が武器を持って走ってくるのが見える。

「なんか怖い」

『そうでしょ。貴女に逃げ場はないわ』

「なんでこっちに走ってくるんだろう?」

『え~~~。そこで天然かましてくる!ありえないわ、こんな本体』

紗優は謎の声を無視して城を眺める。それは絵に描いた城。大理石と思われる大きな城。こんな城に住めるのはただの貴族ではない。王族くらいだろう。

ってことは私はお姫様?

「そっか。私は女帝。あの人たちは敵。ここには私一人。私ができることは一つ」

紗優の足元に魔法陣が浮かび上がる。

『え、ちょっと待って。嘘でしょ。いやいや、ありえない。こんなことできるはずない』

「うるさいわ。私を信じなさい、もう一人の私」

え、と驚き謎の声の声がかすれる。

「大樹の楽園」

地面から木々が生え、枝や根で兵士を捕らえる。さらに爆発が起こり、熱光線が降り注ぐ。

兵士は次々と倒れていく。

『ふ、私の出る幕はなさそうね。よく聞きなさい。貴女は自信がない。でも自信を持ったとき、貴女は誰よりも強くなる。私の目に狂いはないわ』

声が彼方に消えると共に目の前が白くなる。


我に戻ると土人形が美卯によって吹き飛ばされたところだった。時間は一秒たりとも進んでいなかったらしい。

美卯には負けられない、と紗優も魔法を口にする。

「花粉爆弾」

土人形がいくつもの爆発に囲まれる。土人形の体の一部が飛び散る。

「紗優もできるようになったんだ」

美卯は嬉しそうに言う。子供が成長していく姿を見る親の心が分かった気がした。

紳真は手を叩き、二人の成珠を祝福する。

「いや~、凄いね。こんな早く使えるようになるとは。じゃ、もう一個ステップアップしてみようか」

ボコボコにされた土人形は復活し、二人に襲いかかる。

「今度はこっちも攻撃するから」

二人は土人形の攻撃をかわしながら防ぎながら、反撃していく。

十数分後、美卯と紗優は息絶え絶えでその場に座り込む。

土人形は顔と足一本を無くし、崩れている。

「めっちゃ疲れた。何よこれ。あのときみたいな風が起きない」

「うん、そうだね。これはちょっと精神的につらい」

ふて腐れて言う。

紳真は何を言っているかすぐにわかりフォローする。

「あれをやろうとしたら、魔力の大半をもってかれる。それに一年以上ここにいても使えないやつの方が多い」

「徳松君は使えるの?」

「使えるよ。でも好んで使いはしない。デメリットの方が多いからね」

紳真が土人形に触れると土人形は消えた。

美卯と紗優は初めて魔法を使って大満足そうな表情をしていた。

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