0014

 三階に矢印が止まり、またビーッとブザーが鳴った。

「ようこそ。俺の厨房へ」

 白いタイル張りの床の所為で、一歩進むごとにコツンコツンと甲高い音が鳴る。

 いつも食事をする部屋のキッチンも大きいとは思っていたが、やはりさすがは厨房。物凄く広くて大きい。

 部屋の中心には、大理石で出来た台がある。多分そのまままな板の役割も出来るのかもしれない。壁回りはいくつも並んだビルトインコンロに深く大きなシンクや冷蔵庫、食器棚などがびっしりと整列していた。

「うわぁすごい……」

「だろ? なんたって俺のお気に入りの場所だからな」

 シュワルツェネッガーさんは、パンッと手を叩きこう言った。

「ジャム作るぞ」



 寸胴の鍋にグツグツとオレンジの半固体が煮られている。休まずぐるぐるとおたまで鍋の中身をかき混ぜるシュワルツェネッガーさんはとても楽しそうだった。

「こんなに作って大丈夫なんですか?」

「ああ。パンにぬったり、お湯に溶かしてオレンジティーもどきにしたりも出来るしな。それに、ジャムが好きな奴がいるし。……さて、こんなもんでいいだろ。味見してみるか?」

「しますします」

 シュワルツェネッガーさんは、台の隅に置いてあったバスケットから、フランスパンを取り出し、それを薄く切ってジャムを乗せた。

 オレンジジャムはまるで宝石のようにキラキラ輝いていて、とても綺麗だ。

「ほら、口開けろ」

 言われたままに口を開けて、食べる。

「……ぉお」

 このしゃくしゃくプチプチとするのはオレンジの皮だろう。手づくりならではの自然な甘さの中に酸味が程よく効いていて、

「とても美味しいです!」

「そうか。よかった」

「温かいジャムは初めて食べました。美味しいものですね」

「冷やしたらもっと美味しいぞ。鍋のジャムを瓶に入れるの手伝ってくれ」

 小さくて丸い瓶。四角い瓶。楕円形の瓶によく分からない形の瓶。どれも同じ形や大きさの瓶は一つも無く、それぞれの瓶の形にオレンジの色で満たされるのを見るのが、とても楽しかった。

「大量ですねぇ。十五個ありますよ」

「ジャムは貯蔵が効くからな。それにお前がいるからジャムの減りも早そうだ」

「なっ」

 カッと顔が熱くなった。「どういう意味ですか! そんなにすぐ減るような使い方しませんよ!」

 ケタケタとシュワルツェネッガーさんは笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「こんなに作っても、一人じゃ減らないんだ」

 シュワルツェネッガーさんはそう言って、またくしゃくしゃと私の撫でて微笑んだ。

 笑っているけど、何故か胸の奥がじわりと熱くなった。

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