0013
「……シュワルツェネッガーさん」
「なんだ~?」
「いつまでもぎればいいんですか」
「その箱一杯になるまで」
キャスターの付いた木箱を引きずりながら溜め息を吐く。
木箱のなかには、昼前の太陽を浴びキラキラ輝くオレンジが木箱の三分の二ほど入っている。
そう、シュワルツェネッガーさんがこのオレンジ畑に来たのは私を後ろからおどかすためではもちろんない。
オレンジを食べ終わると木箱を渡され、「オレンジの収穫を手伝ってくれ」ということだった。まさかシュワルツェネッガーさんの方から手伝いを求められるとは思っていなかったので、意気揚々とオレンジをもぎっては木箱に入れ、もぎっては木箱に入れとやってきたが、いくらもぎっても箱は一杯にならず、そろそろ楽しさより疲労感が勝ってきた。
「おいおい。あと少しじゃねぇか。頑張れ頑張れ」
ゴロゴロと引きずるシュワルツェネッガーさんの木箱はオレンジが山盛りになって入っていた。
「普通、オレンジって手でもぎるんじゃなくて、刃物かなんかで切って採るんじゃないんですか」
シュワルツェネッガーさん目をぱちくり。
「今更か。お前が楽しそうに手でもぎってたからいらないもんだと」
「シュワルツェネッガーさんが手でもぎってたじゃないですか!」
「お前と俺との力では差があるだろうが。俺は手でもぎった方が早いだけで、専用のやつはしっかりあるんだぞ」
結局は私が訊けばあったことなので文句など言えない。ぐぬぬ、と堪える。
「しょうがねぇな~。俺のいっぱいになったからお前の方にどんどん入れていくぞ」
シュワルツェネッガーさんはブツリブツリとオレンジをもぎっては木箱に入れていく。シュワルツェネッガーさんが早かったのは両手を使い、一気に二つをもぎっているからだと分かった。大振りと言っていいほどのオレンジをそうやってもぎれるのは、手が大きいからだろう。比べなくても一目瞭然だ。
私がやっと五つか六つ入れたところで木箱はいっぱいになった。
「収穫終了。ほら、運ぶぞ」
ゴロゴロと木箱を操り屋敷へと足を運ぶ。ズシリと重たくなった木箱は、芝生に車輪が若干めり込んでなかなか進まない。
フゥフゥと息を上げながらシュワルツェネッガーさんの後をついていく。
洗濯物のコーナーを突っ切り、裏口らしき両扉を開けて中に進むと、洗濯機や巨大な桶、ランドリーボックスが置いてあった。そしてそのまま真っ直ぐ進むと、正面には運搬用の大きなエレベーターがシュワルツェネッガーさん越しに現れた。
ボタンを押すと、ビーッとブザーが鳴りながら扉は上へと開いていく。ああ、この型のエレベーター私の家にもあるなとぼんやり思い出した。
「何ボーッとしてんだ。早く乗れ」
「あ、はい!」
私がエレベーターに乗るとまたビーッとブザーが鳴り扉が閉まっていった。そして訪れるエレベーター特有の浮遊感。そしてひとつの疑問。
「このエレベーターってどこに繋がっているんですか?」
「ンッン~」といつの間にか足で小さくリズムを執りながら鼻唄を歌っているシュワルツェネッガーさんはいつものニヤニヤした笑みで言った。
「厨房だよ」
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