0008
私よりも30センチ以上高いであろうシュワルツェネッガーさんの頭を見上げながら、彼の歩調に合わせて廊下を進む。これだけ広い屋敷内の部屋の数、その部屋まで行く道順が頭のなかに入っているのだろうか。
「おら、ここだ」
シュワルツェネッガーさんは迷わず扉を開ける。ムワッとした温かい風が頬を撫でた。入浴剤の匂いだろうか、柑橘系の甘い香りがする。
「もう、湯は張ってある。シャンプーとかそういうのは入ったら分かるから、タオルもそこのを使え。じゃあな」
ポンッと背中を押して浴室に入らせ、シュワルツェネッガーさんはそのまま出ていってしまった。
ぐるりと辺りを見渡す。部屋の大きさは髪を切った部屋と同じくらいで、部屋の三分の一ほどが脱衣所のようだ。左の壁は端から端まで鏡とカウンターのような台が付いており、等間隔で椅子が五つ並んでいる。台の上には、ヘアブラシやドライヤー、化粧水まで置いてあった。反対の右側の壁はランドリーボックスがこれまた五つ並んでいる。脱いだ服はこの中に入れるのだろう。
もう三分の二は多分浴室。シャワーカーテンの大きく横に長いバージョン、といった仕切りがどーんと立ち塞がっている。
取り敢えず入ろう。シュワルツェネッガーさんも入れば分かると言っていたし。
靴を脱ぎ、着ていたものを全てランドリーボックスに放り、カーテンをくぐった。
「お」と思わず声が
大人が三人は余裕で入ることができるであろう、置き型の柔らかなカーブをもったバスタブがどっしりと待ち構えていた。しかも、木製である。柑橘系の匂いがよりいっそう強まった気がした。バスタブのなかを覗き込むと、淡いグリーンの湯が張ってあった。入ったらさぞかし気持ちが良いのだろう。
バスタブからほんの少しだけ離れたところにガラスの壁に覆われたシャワールームがあった。なかに、シャンプーやボディソープと思われるボトルが置いてある。
シャワールームに足を運ぶ。タイル張りなのに足の裏はぬくぬくと温かい。ヒーターでも仕込んでいるのだろうか。
いつもならササッと髪を洗い流すのにもシャンプーだけで十分は時間が掛かっていたが、髪が短くなると体を洗い流すのも合わせて十分も掛からないくらい終わった。
シャワールームを出て、早速バスタブのなかに足を
「あぁ~……極楽……」
もとの家ではまだ小学低学年の頃ほどに、一度バスタブの底が割れて捨てたきりシャワーしか使ってこなかったので、肩まで湯に浸かるのは恐ろしく久しぶりのことだった。
木製のせいなのか、湯は全く冷める気がしない。柑橘系の香りが鼻腔を擽り、なんだか瞼が重たくなってきた。
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