0006

 貫禄ある林檎の樹の裏側には、お城にあるような広くふっかふかのカーペットが敷かれた階段があった。それを上り、右手に曲がって直ぐの部屋に通された。

 部屋の広さは学校の教室を半分にしたくらいの大きさで、大きな鏡が壁に1つと、一人掛けの椅子が1つ。そして、その傍らには何やらいろいろと乗ったワゴンが置いてあった。

「よし、座れ」

「え、本当に切るんですか!?」

「当たり前だろ。だからこうして髪を切れる完璧な部屋もあるし、専門の道具も揃えてあるだろ」

「わざわざそろえたんですか!?」

「元々あるんだよ元々。面白そうだからな」

 早く早くとかすシュワルツェネッガーさんはずっとニヤニヤしていてとても不安になった。何を言っても聞かないだろう、と仕方無く椅子に座る。

 ワゴンからカットクロスを取り出され、掛けられる。ワゴンに目をやると、プロが使うような本格的な道具が所狭しと並んでいた。

「あの、何か美容師の免許持っていたりするんですか?」

「あ?持ってねぇよ。独学だよ独学」

 頭を抱えた。もう、おしまいだ。私の髪はこの人によって面白おかしく改造させられるんだ。

 シュワルツェネッガーさん曰く「面白い=おかしい」ではないと言っていたが、私にはその言葉の意味がよく分からなかった。

「うーん。お前頭小さいな」

 くりくりと頭を撫でくりまわしながら、シュワルツェネッガーさんが鏡越しに難しい顔で私の顔をのぞいた。

「ほら、俺の手と同じくらいだもんよ。お前の頭だったら片手で持ち上げられるかもな」

 撫でくりまわしていた手にぐっと力が入った。

「や、やめてくださいよ!」

「冗談だよ冗談」

 ケラケラと笑う彼の言葉は冗談に聞こえなかった。

「お前、身長も150ちょいとそこそこだろう?それだったら首元見せた方がスッキリ見えるな」

 言葉と流れるように突然ザクッと音がした。床にどさりと大量の黒い髪が落ちる。そこからシュワルツェネッガーさんは無言で私の髪を切っていった。

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