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勝手ながら私はずっと『シュワルツェネッガーさん』を、彼を、女の人だと思っていた。
父の「優しくて料理が絶品」の他に、母から「大きな屋敷には一人で住んでいる」と聞いていた。まさか、男の人が一人で住んでいるところに娘を住まわせるとは、全く考えていなかった。考えるわけがない。
「どうした。中に入らないのか」
シュワルツェネッガーさんの声にはっと我に返った。
「あ、あの、ジェイコブとローラの娘のアルモナです。今日からよろしくお願いします」
恥ずかしさもあって深々とお辞儀し、頭をあげた頃にはシュワルツェネッガーさんは
「ここがエントランス、及びホールだ。受付カウンターがないホテルみたいだろ」
言葉の通り、受付カウンターがないホテルのようだった。ホールの真ん中には巨大なガラスのケースのなかに貫禄のある樹木が鎮座している。何の木なのか聞いてみると、林檎の木らしかった。南向きの窓から入る太陽の光によって林檎の木は健康的に成長しているようだ。
「荷物はそこらへんに置いとけばいい」
「え、でも」
「いいから」
キョロキョロと見渡し、ホールの隅に置いてあるローテーブルの上にボストンバッグを置いた。その
「えーと、名前なんだっけ」
「アルモナです。アルモナ=リーヴェ」
「そうか。アルモナ。よろしく。俺は、ロブ=シュワルツェネッガーだ。なんとでも好きなように呼んでくれたらいい。そうだな。まず、髪を切るぞ」
「え"ッ」
屋敷に入って三分と経っていないのに何を言い出すんだこの人は。
「長い。長過ぎる。全く面白くない」
「あの、意味が……」
分からない。確かに私は髪が長い。
「俺はな、面白いものが好きなんだ。だから屋敷のホールもホテルっぽくしたしな」
やっぱりそうだったのか。
「だから俺がお前の髪を面白くしてやるって言っているんだ」
「お、面白くって何する気ですか」
アフロにされるのか。坊主にでもされるのか。私は守るように髪を後ろに流した。
「お前なぁ、面白い=おかしい、じゃねぇんだよ。俺の面白いっていうのはもっとセンスがあるものだぜ」
「い、意味が分かりません」
「とにかく、お前にしか似合わねぇ髪型をプレゼントしてやるっていうことだ。屋敷への歓迎と受け止めてくれよ」
父さん、母さん。二人が一緒に屋敷に挨拶にしに行って今のようにこう言われていたら、本当に泣きついていたかもしれません。
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