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「こ、ここが、『シュワルツェネッガーさん』のお屋敷?」

「そうだよ。立派だろう」

 まず、車を停めた目の前にある白く塗られた巨大な木の門に呆気あっけにとられた。門は両開きするものらしく、今は片方だけが開いている。いったい誰がこんなに巨大な門を開閉させるのかとても気になる。

「私たちはここまでしか送れないわ」

「え? 一応挨拶とかしないといけないんじゃないの……?」

「怖がって私たちに泣きついて帰ってしまったら困るから。とシュワルツェネッガーさんからの要望だよ」

 父はおちゃらけて言った。しかし、少し不安を感じているのか 顔は強張っていた。

「父さん、母さん。私のわがままを聞いてくれてありがとうね」

「いやね。娘の自立を喜ばない親なんていないわよ」

「人のところにお世話になるから自立とはまだ言えないけどね」

「何を言っているんだ。親以外の人と暮らすことでも立派な自立のひとつさ」

「……じゃあね。また研究所で」

 研究所で、と言っても、働くことになるのは4月の半ば、約一ヶ月後となる。運転免許こそは持っているものの、車やバイクなどをまだ所持していないことで、その間にちょくちょく両親のところへ顔を出すことは無いに等しかった。

 私は、父と母にハグを交わし、車に乗り込んだ両親を見えなくなるまで手を振り続けた。


 巨大な門をくぐると、恐ろしく広い庭が目の前に飛び込んできた。植えられている庭木や草花は、美しく手入れされており、大理石で出来た立派な噴水もあった。

 先程から、ずっと全身が粟立あわだっている。大きな屋敷とは聞いていたが、本当に大きな屋敷だった。屋敷というよりお城に近い。

 屋敷の扉も驚くほど大きかった。上品なオリーブの色で塗られた扉だ。扉の横には呼び鈴が設置されていた。

 それを軽く押すと扉の奥で「リンゴーン」という音が聞こえた。

 しかし、『シュワルツェネッガーさん』は出てこない。もう一回押しても、出てこなかった。

 もしかして外出中なのか、と思ったがそんなわけがない。車を家から出す前に、父はしっかりと『シュワルツェネッガーさん』に連絡していたのを私は見ている。

 もう一回押そうとすると「ガチャリ」と音がしたと思ったら、勢いよく扉が開いた。

「何回も押さなくても聞こえてるよ。出てくるのが遅れたのは悪かったけど」

 私は長く固まっていた。いや、ほんの数秒だけかもしれないが、長く突っ立っていた。言葉がうまく出てこなかった。「今日からお世話になります。ジェイコブとローラの娘のアルモナです」とまず、挨拶しようと思っていたが、

「あ、あなたが『シュワルツェネッガーさん』ですか?」と聞いてしまった。

「そうだよ」

『シュワルツェネッガーさん』は軽くうなずいた。


 なんてことだ。


『シュワルツェネッガーさん』はだった。

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