お言葉(全文) ~平成110年版

西田三郎

第1話 お言葉(全文) ~平成110年版

 戦後150年という大きな節目を過ぎ、2年後には、平成110年を迎えます。


 私も160を越え、いかにサイボーグ手術を重ねてきたとはいえ、メンテナンスの面などから様々な制約を覚えることもあり、ここ数年、●●としての自らの歩みを振り返るとともに、この先の自分の在り方や務めにつき、思いを致すようになりました。



 本日は、人々のサイボーグ化が進む中、●●もまた不死身となった場合、どのような在り方が望ましいか、●●という立場上、現行の●●制度に具体的に触れることは控えながら、私が個人として、生身の人間として、これまでに考えて来たことを話したいと思います。



 即位以来、私は国事行為を行うと共に、憲法下で象徴と位置づけられた●●の望ましい在り方を、日々模索しつつ、160年を過ごして来ました。


 伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、更に日々新たになる日本と世界の中にあって、日本の●●が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています。



 そのような中、何年か前のことになりますが、8度目の細胞活性化手術を受け、人工臓器取り換えによる体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合、どのように身を処していくことが、国にとり、国民にとり、また、私のあとを歩む●●にとり良いことであるかにつき、考えるようになりました。



 既に160歳を越え、なんとか科学技術の恩恵により健康体を維持しているとは申せ、次第に進む気力の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。



 私が●●の位についてから、ほぼ110年、この間私は、我が国における多くの喜びの時、また悲しみの時を、人々と共に過ごして来ました。



 私はこれまで●●の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが、同時に事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。



 ●●が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、●●が国民に、●●という象徴の立場への理解を求めると共に、●●もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じ、科学、とりわけ人工細胞の技術をたよりに命を繋いで来ました。



 こうした意味において、日本の各地、または月や火星などの植民地への旅も、私は●●の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました。


 皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行って来たほぼ全国、全太陽系に及ぶ旅は、どこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、●●として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした。



 ●●の不老不死化による気力低下に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます。


 また、●●の細胞が再生困難であったり、故障などによりその機能を果たし得なくなった場合には、●●の行為を代行するクローンを置くことも考えられます。


 しかし、この場合も、●●が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで●●であり続けることに変わりはありません。


 ●●は、死ぬことを許されないのです。




 ●●が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、平成31年にも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。



 昭和までの●●のしきたりとして、●●の終焉に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き、その後喪儀に関連する行事が、1年間続きます。その様々な行事と、新時代に関わる諸行事が同時に進行することから、行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。



 こうした事態を恒久的に避けるため、2020年の東京オリンピック開催を前にはじまった●●のサイボーグ化・不老不死化が果たして正しかったのかどうか、という思いが胸に去来いたします。



 始めにも述べましたように、●●の下、●●は国政に関する権能を有しません。

 また、自由に死ぬ権利も有しません。



 そうした中で、このたび我が国の長い●●の歴史を改めて振り返りつつ、これからも●●がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。 



 平成28年、68年に引き続き、今度こそ、今度こそ国民の理解を得られることを、切に願っています。

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