十日目ー①
「お前が放った小鳥はどうなんだ?」
「素質はあると思います」
暗闇に紛れるように、それぞれの足元だけがぼんやりと照らされる。
1人はストライプの入ったスーツを、もう1人は無地だが上質の生地を使ったスーツを纏い、手の内を極力あかさないようにと、どちらも努めて事務的な会話を続ける。
「檻の中の鳥どもは子供の様なものだ。大人の我々が言っても警戒されるだけだ」
「おっしゃる通りです」
「だが制御出来る力がなければ、暴力の波に呑まれるだけだ」
「大丈夫です」
平静を装っていても力強い言葉に、言われた相手はわずかに眉をあげる。
この男がここまで断言するとは珍しい、何も言わなかったが相手の心証はさしずめこのような程度のモノで、会話に出てくる相手を思いやる感情は含まれていない。
「彼は王に気に入られたようだな」
協力する気がなければ2度目はなかった。気に入らなければ3度目以降の橋渡しはしない。
「彼は…壊れないかね」
「……」
今度は大丈夫だという返答は返されなかった。
誰しもがかっこうの巣に入れられた新しい卵が無事孵るかどうか等、予想もつかない事であるからだ。
- goes back slightly -
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(直通ってこのことか…)
言われれば納得するが、言われなければそんな機能など最初からついていないと思う。
少なくとも2回こんな檻の中にぶち込まれてもそんなものがあるかすら考えてもみなかったのを思えば、つくづくここは外側の干渉を嫌っているよく出来た構造になっていると悪態をつくのが精いっぱいだ。
(まさかエレベーターに乗った時点で分けられているなんてな)
そのまま来ればいいと言われた通り、今日は真紅のカードは持っていない。
入り口で入れられるカードの類は何もない。
だからせめてカード入れのところで何か暗証番号でも打ち込むところがあればと触れれば、指紋認証になっていたことを知る。
(だからあいつは俺の指紋を取ったのか)
思えばそれらしい番号も教えてもらっていないし、あいつとあれから話したのは百舌鳥のことだ。
(あいつは知っているような口ぶりだったな)
だけど、肝心事は知らない。そのことでこの一連の出来事に少なくともあいつは関わっていないことがわかった。
『オレ達はKINGに頼まれないとそんな面倒なことしないもん』
その言葉を信じるのならば、あいつ“達”は直接手を下していない。だけど事件の事は知っている。そして俺達に手を貸してくれようとしている。
(ありがたいが…気味が悪ぃな)
今度は2回よりも短めに重力が元の感覚に戻ったかと思うと、目の前の扉が開く。
「ここに…続いてんのか」
少し前には地下へ降りるエレベーターが見える。確かにこれなら入り口でわざわざ施設の関係者と形式的なやりとりをしなくてもいいし、監視カメラにひっかかることもなければ、これでもかという位荷物を取り上げられることもない。
(だからあいつお土産持ってこいとかいっていたのか)
片手にがさがさとなる荷物に溜息をつきながらも、もう1度別のエレベーターに乗り込む。
(待てよ)
このエレベーターは少なくとも俺専用ではない。となると、ここを別の人間が使うことも可能だ。
(もしかして……)
犯人は、ここを使って外へ出た?
思ったよりも早くエレベーターが到着の合図を鳴らし、目の前が開かれる。今度のドアは閉まっていたが、この奥に誰がいるだとかそんなことはどうだっていい。
(この檻の中のヤツが…犯人……?)
だからKINGは俺達に協力する。何故なら自分が管轄している場所の中に犯人がいるから。
通常では考えられない殺害方法も、俺達が掴む前に証拠を掴んでいたのも、内部犯行なら可能だ。そのためにあの男達を動かそうとしているとしたら…。
(だとしたらどうして俺達に接触しようとする)
捕まえることは俺達の特権だとしても、ここにいる奴らなら俺達よりも効率よく犯人を捕まえることが出来てもおかしくはない。
ほとんど何も知らない俺達があれこれ動くよりも、内部事情に精通しているヤツがやった方がはるかに効率はいいし、いざとなればパイプを使ってあぶりだした犯人を俺達に引き渡せばいいだけの話なはずだ。
それをしないのには、何か理由がある。だけど、その理由は、KING以外まだ誰もわからないとしたら?
(叔父さんが俺にそれを探らせようとして…KINGはまた別の理由で俺を利用しようとしているのか?)
疑問は疑問の域を出ない。
「ここと同じように閉ざされたドアみたいだな…」
失笑に近いものが零れたが、振り返っても誰もいない。
「……」
ドアをノックすると、しばらくして中からカチリとドアが開錠された音が聞こえる。
開けば今度は水音もしない。静かに静まり返った部屋には寝ているようなヤツもいない。
(KINGは…今日もいないのか)
これだけ呼び出しておいて、未だに接触はない。
いい加減1度位顔を見せてもいいところだが、こうも毎回不在の上関係のない奴のたまり場となっていると、そもそもここが王の部屋かどうかすら怪しく思えてくる。
「あれ?お前」
「……」
この前作っていたプラモの代わりに今度は恐竜の骨格標本らしきものをいじっている少年は、俺が声をかけるとわずかに視線を寄越し、また目の前のおもちゃに夢中になっている。
(こう見てるとうちのガキと同じ感じなんだけどなー…)
あいつも俺と同じで体を動かしている方が性に合っているから、こんな風に知的なおもちゃで遊んでいた記憶はないが、年齢的にも近い程度だと思うと妙に親近感が沸く。
(あ…)
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