突然絶対者の役割

 そんなわけで、アブラハムの宗教の聖典である旧約聖書のレビ記には、「豚は(食物としては)穢れたいきものである」と書いてあるわけであるが、一応キリスト教ではぐだぐだになってゐる。ので、エジプトではムバラク政権下の頃、豚肉を食べるコプト教徒(エジプシャンキリスト教)用にイスラムの人が屠畜した豚肉をイスラムの肉屋が売ってたさうである。たかがこんな程度がファンタジーの彼方に行くベクトルを持ってしまったのは大変嘆かはしいことである。さらに、エジプトでは大変複雑なことに、モーゼの頃辺りから一応まあ豚嫌ひがあったらしい。松本仁一著「アフリカで寝る/アフリカを食べる」では、人間と同じものを食べる豚と競合しないため、といふ合理性が指摘されてゐる。


 さういふ、まあ納得できないではない物から、「反芻をするが蹄が割れても分かれてもいないもの 即ち駱駝、兎 ハイラックスはあなた方には穢れたいきものである」といふ、反芻って栄養価の高いものをけつから出して口に入れるんだけどな兎、指が蹄になりかけてゐる!ハイラックス(を、ものすごくガン見すると、反芻動物の如く常に咀嚼してゐるやうに見えるらしい)を蹄動物に入れるやうな恐るべき物と並んで、「全て羽があって群棲するもので、四つの足で歩くもの、これらはあなた方には穢れたいきものである」といふ、理不尽てレヴェルぢゃねえぞ、タテハチョウとかジャノメチョウとかは確かに四本足で群れてるが、シナイ半島にゐた気があのー、と言ふものを、あーだかうだなんだかんだやり、徹底的に民をしばく方へ回る、アブラハムの宗教でなくて、「クリスト教」の神の存在について、福田恒存(どぅおおおおおおお)は、


 絶対的存在であり、相対的な此岸の世界の他にゐて、相対的なこちらの人が大嫌ひで、粉砕したいと思ってゐる。

 

 と言ひ、そのやうな物を拝んでゐる人が、さう言ふ、全員悪人であるといふ人間観を引きずってゐると、言論の自由を保障し、「智に働けばクリエイト」が可能になると主張し、科学がクリスト教圏のみで発達した旨を指摘した。


 勿論、イスラムのアッラーフも絶対者であり、科学を発達させた経緯を持ち、キリスト教圏も中世の暗黒時代、科学の停滞を興してゐるわけであるが、南方熊楠は、福田恒存と同様に、と言ふか、福田先生がインドの「理屈がはい回る」点とクリスト教圏の創造性に富む点を比較するのに対して、こんなんですけど仏教徒ですの南方先生は、インドで、仏典に出てくる角先生(ググれ)を作る際のゴムが大人のおもちゃの材料で終るのに対し、イスラム圏で科学が発達したり、あのー日本で、一ミリの十分の一で描かれた陰毛とかの浮世絵買ひまくった英国人が、三色刷り印刷機を発明した旨を出し、さうなった訳としてそこらへんが「言論の自由を保障したからじゃ」と指摘する。また、松本仁一御大は、イスラム圏で科学が発達した後、堕落してさういふ関係を焼き払った頃、原始的であったキリスト教圏の人が、そのイスラム圏の焼け跡から資料を集め、御国で科学を発展させた歴史を描く。

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