第1話 グラン

世界規模で数えても、5本の指に入るとされる広さを誇る街『グラン』。

その街の真ん中にそびえ立つ3つの巨塔。

あそこが僕たち龍壊師の施設だ。

その中でも真ん中の、一際巨大な塔は主に、各地から寄せられた情報の整理、定期的に行われる会議等、運営に関わる事を専門にしている。

そんな、塔の8階、そこに僕とレナはいた。

「そうか……。何もなかったのか……」

「ええ。誰かに荒らされた形跡は無く、おそらく倒壊してからかなり時間が経っているものと思われます」

もうかれこれ20分くらい話をしている。僕では無く、レナが。

「そうか。では、引き続きで申し訳ないが、レナ1等はこの件を、エイガ2等は待機しておいてくれ」

1等や、2等というのは、階級の事だ。

2等から始まり、1等、上等、龍官の順に位が存在している。また、龍官の中にも、下位、中位、上位の3種がある。

「分かりました。では、失礼します」

どうやらレナは、話が終わったようでこの部屋の出口である扉へと歩いて行く。

僕はそんなレナに、慌ててついて行く。


「はぁー。待機か」

待機……。それだけ聞くと、それほどショックを受ける事もないのだが、あえて悪く言うなれば必要ないからついて行くな、という事になる。

「ため息などつくな。鬱陶しい」

良いよなーお前は。任務続行だし……。なんて、ここでは言えないな。

なんせ、たとえ階級が一つ上で、顔見知りであろうとも上司である事には変わりない。

それに、2人の空間であれば、相手が許している場合は敬語を使わなくても良いのかもしれないが、不特定多数の人に聞かれる場面では、敬語の方が良い……よなぁ。

「すみません」

レナは、僕の放った言葉を聞いて、顔を少しだけ歪めたがすぐに元に戻った。

「それじゃあ、私は調査に向かってくる」

レナはそう言うと、僕の返答も待たずに行ってしまった。

「さて……と。これから何しよう」

つい先ほど、待機を言い渡され、暇になってしまった。

とりあえず、今いる真ん中の塔は事務処理などが主な仕事であり、待機を言い渡された人間にとっては、あまり居る意味がないところだ。

「東の塔に行ってみるか」

だとすると、あまりやることのない人が多くいるのは、東の塔だろう。

あそこは、主にトレーニングや龍壊師同士の模擬戦を行うための施設がある。

そんなことを考えながら、僕は真ん中の塔を出た。

教会、公園、学校、住宅街、貴族たちの家、人間、獣人、エルフ、ドワーフその他にも様々な光景が瞳に映りこんでくる。

そんな光景を、横目に見つつ、僕は東の塔に向かった。

向かうと言っても、徒歩で約5分程度の道だ。それほど考え事をする時間もなく、大体いつも気がつけばいつの間にか着いている。

やはり、今回も大したことを考える程の時間もなく着いてしまった。

模擬戦……。それだけ聞くと、心踊る人もいるのかもしれない。だが、いくら模擬戦といっても、戦いだ。痛いことに変わりない。

「見てる分には、楽しいんだけどなぁ……」

などと、悪態をこぼしつつ、僕は東の塔に入っていった。

すると、

「エーイーちゃーん!!」

「ソフィ……。どうしてこんな所に?」

ラミア=ソフィリア。

長い金髪をなびかせるその姿は、姿だけなら女神にも劣らない容姿を持っている。女神見たことないけど……。

僕と同時期に入った2等の新米の龍壊師だ。

確か、調査の為に別の国に行っていたはずだが……

「んー。ついさっき帰ってきたんだよー」

どうやら、僕の疑問は聞こえていたようで、ソフィからの答えが返ってきた。

「そうか」

「うんっ!!」

テンション高いんだよなぁ……こいつ。

何にしても、あまり一緒に居たい部類ではない。少なくとも僕はそう考えている。

「それじゃあ、僕は模擬戦を見に来ただけだから」

こういう奴は、早く離れた方が身の為だ。

そう考え、適当に、思ってもない事を口にする。すると、

「あー!じゃあ私も行くー!」

は?なんで来るんだよ……。

「そうか……。」

しかし、ここで「お前は来るな」なんて事を言えば、流石に角が立つだろう。

「ここからだと、階段の方が近いな……」

模擬戦を行う部屋は、2階の……と言うより、今いる所の真上だ。

「えー。階段ダルいー!」

階段の方が、早く着くのだが……おそらく階段を上る事自体が面倒なのだろう。

仕方ない……

「分かったよ。エレベーターの所まで行こう」

僕は、自分に出来る限り嫌そうな顔で、ソフィのわがままを承諾した。

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