第2話俺と彼女

ようやく四時限目が終わった。


「あー疲れた」


席に座ったまま両手を上げ少し声を抑えつつあくびをする。


今も頭から蔵下の言葉が離れない。あれは現実だったのだろうか。


「あの……」


物思いにふけっていると、席の後ろから、女の子のような甲高い声が耳に入る。


俺は別の誰かに問いかけているのだろう。と、その声を無視した。


「あの、井上さん……」


俺は自分の名前が呼ばれたことに驚き、迅速に後ろを振り向く。


「お昼、ご一緒なさいませんか?」


そう言ってきた茶色い長髪の女の子は、髪を腰まで伸びていて、口はアヒルのようにし、目をキラキラと輝かせているではないか。


しかし、女性に対して興味を抱かない俺は、二度と誘われぬよう、


「悪いけど俺、お前に興味ないから」


と、低い声で答えた。


「あの……」


女の子がこの次の言葉を発した瞬間、俺の中で戦慄が走った。


「勘違いしないでくださる? 平民さん」


と、誰にも聞こえないよう俺の耳元でささやいたのだ。


「と、突然なに言いだすんだよ……」


俺は震えた声で言い返した。


「私は貴方の敵でもなければ味方でもない……、ただ、私の命令に従わない場合は即刻報告するわよ」


いきなり口調を変えてきたこの女は、相変わらず耳元でささやいてくる。


「お前、何で俺が推薦だってこと知ってるんだよ」


「私は貴方を知っていたからよ」


「は? 訳分かんねーよ……」


何が何だかさっぱり分からないまま、話は進められる。


「まず手始めに、明日から一度でも遅刻したら報告するから」


「まじかよ……」


そんな当たり前の事に、俺は恐怖を覚える。


色々な出来事に混乱させられながらも、一つだけ不思議に思ったことがある。


「お前、名前なんて言うの」


「そうね、華さんとでも呼んでくれたらいいわ」


「普通の名前か……」


その名前にどこか違和感を感じるが、そんな事を考える時間よりも、明日から始まる俺の人生について考えたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の素晴らしい高校ライフ ごうでぃ @gouder

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ