第20話 男子高校生とメロンパン病

「ようやく出てきたか。予定より一時間も遅いぞ」

「ほんま、佐藤は女の子をエスコートするのが下手やなぁ……」


その他大勢、僕の友人。そして多分僕よりも年下の女の子が大勢集まって僕たちのことを見ていた。


「近藤さん、なんでそんな格好しているの?」

「まさ、近藤っちの彼氏さん?」


なんだこれ。いったい、どういうことなんだ……?



「佐藤さん……いったいこれは?」

「僕にも……分からない」


ドッキリと言って良いのかすら分からないし、もしドッキリだというんだったら、さっさと教えてほしい。それぐらい、今僕と彼女は困惑しているんだ。


「――おぉ、ようやく上り切ってくれたか、シュガーマンと我が妹よ」

「……シュガーマン?」


シュガーマンというのは僕のあだ名で、苗字の佐藤の同音異義語である砂糖を英訳したものに男を示すマンをつけて、シュガーマンと呼ばれている。だけれども、このシュガーマンと呼んできた声はあの、声の主と同じ声で、さらに言うんであれば我が妹というのはどういうことなんだ? それに、自然体でシュガーマンと言ってくるのは一人しかいない。

というか、近藤さんがさっき「お兄ちゃんが学校で堕天使っていわれてる」とか何とか言っていたし、やっぱりこれって……。


「誕生日おめでとう、我が妹よ。それと、知らない間に妹の誕生祝いを手伝わされたシュガーマン。脱出おめでとう」

「……おい、堕天使いや近藤。しっかりと教えろ。これはどういうことだ?」

「えっ? 佐藤さん、うちのお兄ちゃんと友達なんですか?」

「おいおい、そんなに怒らないでくれよ。説明はちゃんとしてやるから」


別に怒っているわけでは無いんだ。ただ、なぜこんな風なことが起きてしまったのかを教えてほしいだけなんだ。


僕は堕天使、つまりは近藤から話を聞いた。話をする前に、「お兄ちゃん、このことの主犯ってお兄ちゃんなの?」って近藤さんに聞かれて堕天使が「うん」と答えて顔面を殴られていたのは面白かった。


「シュガーマンや。俺はな、妹が大好きなんだ。妹属性があるから好きでもあるんだが、もちろん属性がなくても妹を愛している。何度か性的な目で見たことはあるけれども、最近はなるべく抑えるようにしている。そんな可愛い、いとおしい妹に、何か誕生日だからプレゼントをしてあげたいと思って、今回一生忘れられない誕生日にしようと思って見知らぬ男と一緒に脱出ゲームというプレゼントをしてあげたんだ。お前に計画をばらしてしまったら、必ず脱出ゲームをやっているときにぼろが出てしまうと思ったし、本当に知らない男に妹の身を任してしまうのもあれだったから、人知れずお前にすべてを任したわけだ」

「それで、僕が納得すると思うか?」

「でも、妹の下着姿見れただろ? 結構可愛いだろ?」

「……」


確かに、可愛かった。


「まぁ、シュガーマン。妹は今、妹の友達が持ってきてくれた洋服に着替えているから、戻ってきたらパーティー会場に移動することにしようや。この日のために、俺のバイト代をためたり妹ファンクラブの面々から金を回収してきたんだ。かなりド派手なパーティーだから任せてくれよ」

「そ、そうか……」


はっきりといっておこう。僕は、本当に今何が起きているのか、これは本当に現実なのかが良く分からなくなってしまった。だって、こんな状況生まれてきて子のかた全く想像したことがなかったからだ。


近藤さんが帰って来てからは、全部堕天使に乗せられるままパーティー会場に移動して、バカ騒ぎをして、近藤さんと「なんか、よくわからないですね」と会話して、知らない間にパーティーが終わっていて、いつの間にか僕は家に帰って来ていて布団の中にいた。


「いったい、何だったんだろうな。今日、一日……?」


そう言えば本当は一日以上経ってるんじゃないのか? ただ、それを確認するために布団から出るのは面倒だから、とりあえず明日確認することにしよう。


「そういえばだけれども、結局なんで彼女がメロンパンって寝言で言うのは分からずじまいだったなぁ……まぁ、堕天使の妹だっていうからまた会うことも出来るだろう。その時に、聞くことにするか……」


さて、今日は眠ることにしよう。色々と疲れたからな。寝言でもしかしたらメロンパンといってしまうかもしれないから、もし気づいたら彼女のあの姿を思い出して、心を落ち着かせたいと思う。



                   〇


「由美。シュガーマンはどうだった?」

「うん、あの人はいい人だったよ」

「そりゃあ良かった」

「……お兄ちゃん」

「どうした?」

「……メロンパンが食べたいな」

「全く、困った妹だ。今度買ってきてやるからな」

「やった!」


メロンパンでこんなに喜んでくれる妹は、全国どこを探しても俺の妹だけだろう。妹は、かなり前に俺が買ったメロンパンがおいしくて、はまってしまったといっていたけれども、俺は妹に買ったことがあるのはメロンパンじゃなくて、あんパンなんだけれどもな……一体どういうことなんだろ?


まぁ、メロンパンが食べたい人間にあんパンを渡してもあれだから、とりあえず今度メロンパンを買ってやろう。


                 〇


「局長」

「どうしたんだ?」

「被験者Aが、我々が先日設置した脱出ゲームに参加をしたようです」

「そうか……。被験者A以外にも、誰か人はいたか?」

「はい。男子高校生のようでして、脱出するのに彼が尽力していたようです」

「そうか……それは良かった」

「……局長。彼女をあのまま放っておいていいんですか?」

「いいんだ。彼女はまだ、あのままで。まだ暗い世界のことなんて知る必要はないんだよ」

「そう……ですか……」



               〇


何もない部屋の中に男女が一緒に居たらどうなるんだろうか? もしかしたら、とんでもない事をしてしまうかもしれないし、何もしないかもしれない。


ただ、それを想像で語るには少しつらいものがある。

結局、現実にそれを体験してみなければ答えというものは導くことはできないのだ。


体験した先に何が待ち受けていおうと、僕たちはまだその先を見ることが出来ない。

僕たちはただ、物事の動きに身を任せて先へと進むしかないのだ。


                        おわり?

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