第19話 青空のメロンパン

一体何に使うものなのか? 固定のためだけにUSB端子を使うなんて考えられないし、もしかしたらこのはしごは何かの記録機器なのかもしれない。


「そういえばなんですけれども……」

「どうしたの?」


彼女が何かを思い出したように話し始める。


「ほら、さっき見つけた二つの穴があるじゃないですか。その穴とこのはしごの大きさがあうなぁ……て思いまして」


あぁ! そうか。もしかしたら、これが隠し扉のカギなのかもしれない。このUSB端子を彼女が見つけた穴に接続することによって何か道が開かれるのかもしれない。


「早速、はめてみましょうよ!」 彼女はそうやって、穴にはしごを入れようとした。


しかし、待て。


「待って! 近藤さん!!」

「ふえっ?」


自然な「ふえっ?」というのは、人をふにゃふにゃな気持ちにさせてしまう悪魔のような呪文だ。ただ、今そんなことを考えている余裕はない。


「もしかしたら、それは罠なのかもしれないよ」

「罠……ですか?」

「あからさまなUSB端子。あからさまな二つの穴‥‥…こんなにすぐ、パズルのピースが揃うと思うかい?」

「佐藤さん……意外とこれを発見するまで、かなりの時間がかかっていると思いますよ?」


……。


「……そうだね、やっぱり入れちゃおう。なんか起きなきゃつまらないもんね」

「そうですよ!」


そうだよ。無駄にここで悩むより、悪いことが起きたとしても行動したほうが、楽しいに決まっている。


                〇


「差し込むよ?」

「……はい」


同人誌といってしまうと、色々な人に誤解をされてしまうが同人誌すべてが桃色のものでは無いことをここであえて言いたいと思う。だってね、同人誌だってちゃんとした二次創作作品のものもあるし、オリジナル作品だってある。全年齢対象のものだってたくさんあるんだ。

ただ、男というものは欲望に絡み疲れているかわいそうな奴らなんだ。だからこそ同人誌のイメージとして桃色のカラーがついてしまって、そのイメージがなぜかわからないけれども世の中に伝言ゲーム的に広がってしまい、本当の同人誌とはかけ離れたイメージが一般化してしまったんだ。


だから僕はあえて、かけ離れたイメージを使って、一般的なイメージを使ってこう言いたい。

なんだろうね、この同人誌的な会話は。


彼女はなぜか汗を掻いて、息を「はぁはぁ」と漏らしている。決してこの部屋が暑いわけでもないし、このはしごが重いわけでもない。それなのに、こんな風にされてしまっては、ただでさえ男にとっては危険な服装なのに、危険な行動をされてしまうともう……我慢が……出来るけれどもね。うん、理性があるからまだ大丈夫。


僕と彼女は、とりあえずUSB端子が付いたはしごを二つの穴に接続をした。


すると。



「―――ようやく、カギを揃えてくれたか。待ちくたびれたよ……もう」


声の主の声が聞こえ、何かわからないけれども、声の主の声は呆れた感じの物言いだった。


「君らがそろえたそのカギは、文字通りその部屋を脱出するためのカギになっている。今、そのカギで開錠できたのは、この部屋に一か所だけ存在する出入り口のカギになっている。君らであればその出入り口がどこにあるかは知っているはずだ。さっさと出ていってくれ。レンタルって延滞料金の方がかかるから、意外とつらいんだよね……」


レンタル? 延滞料金? 一体何の話をしているんだろう。

とりあえずそれは置いておいて、どうやらさっきのはしご達というのは隠し扉を開錠するためのカギだったらしく、僕たちはその隠し扉を開錠することに成功したらしい。この部屋に一か所だけ存在する出入り口は僕たちが一番知っている。と、声の主は言っていたけれども、もし僕たちが知っている出入り口だというのならば、あの何もない部屋の扉だと考えられる。だけれども、そこに行ったとしても何があるというんだ? 良く分からない。声の主が何を考えているのか、僕には全く分からなかった。


「とりあえず佐藤さん、行きましょうよ。どうせ、ここにいたって何もないんですから、この声の指示通り動いていれば何かしらアクションを起こせるはずですし」


彼女は非常に前向きな考えを持っていて、今僕はかなり驚かされている。

僕にも、こんな風に前向きな考えを持てたのであれば人生かなり楽しめると思う。それを習得するまでにはどれだけの後ろ向きな考えを起こすんだろうな。


僕たちは、良く分からないけれどもとりあえずさっき接続したはしごを一旦とって、それをはしごのところにくっつけることにした。これで、はしごが登れるようになった。


「さっさと登ろうか」

「はい!」


                    〇


はしごを登る。そして、僕たちはあの何もなかった部屋を隔てる扉にたどり着いた。今回も僕が上で、彼女が下だ。さっきは開かなかったこの扉も今回は開くことが出来た、


そして、開いた先には


「……なんで、青空が?」

「青空ですか?」


さっきと同じ。場所が変わったなどということはありえない。だって、はしごがあった場所は変わっていないし、変わっていないということは扉の場所も変わっていないということだ。さらに言うんだったら、扉の場所が変わっていないということは扉の向こう側も変わっていないということだ。

わけが分からない。本当にわけが分からない。いったい、どういうことなんだ?


僕はとりあえず、その扉の向こう側つまりは青空の下へ出ることにした。

そこには今まで考えもしなかった、思いもしなかった景色が広がっていた。

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