第17話 眠ってしまったメロンパン

「うーん。そうか。まぁ、お腹も空くよね」

「はい……」


しかし、この部屋はさっきいた部屋よりも良く分からない部屋だ。もちろん声の主という、明らかにこの状況を作り出した犯人が声だけでも現れたけれども、その声だけというのが本当にいじらしく、姿を見ることが出来ないので、とっちめることもできない。相手は聞く耳も持っていないので、お腹が空いたといったところで、何も起きないのだ。

これこそ悲しいことだ。


動かなければ、今のままでも何とかはなると思うけれども、永遠と動かないとなるとこの部屋から脱出することもできず、結局お腹は膨れることはないし、最悪の場合、いや必然的に餓死するだろう。餓死するのがいやだったら、今下ってきたはしごを一度上って、ある程度のところから手を放して地面へと頭からダイブしていろんな意味で楽になるか、声の主曰くどこかにある隠し扉を探さなければいけない。


今、確実にしなければいけないのは、声の主の言っていた隠し扉を探すしかないだろう。それが、彼女にとっても、僕にとっても重要なことだ。


「佐藤さん」

「?」


これからのことを色々と考えている僕の名前を、彼女が呼ぶ。


「さっさと、隠し扉を探しちゃいましょう」

「そうだね」


どうやら彼女も、僕と同じことを考えていたようだ。


         〇


とりあえず、僕と彼女は手当たり次第に部屋の壁や床、頑張ってはしごを登ってみたりした。

だけれども、隠し扉のありかを得られずに無駄に力を消耗するだけだった。なんて無駄なことをしてしまったんだろうか、と僕と彼女は後悔した。


ただ一つだけ、ありかとは言えないけれども少しだけになることがあった。それは彼女が見つけた、壁の二つの穴についてだ。

そこそこの穴の大きさで、そこそこの深さのある穴があってきっと大事で、脱出のカギになるんだと思うけれども、それにしたって良く分からないものだ。この穴に何を入れればいいか。何もない部屋にこの二つの穴があっても、何の役にも立たないと思うのに。もちろん、この穴はどこかへつながっているわけでは無く、しっかりと奥の方には壁があった。


彼女をおいてはしごを登って、さっきまでいた謎の部屋に戻ろうとしたけれども、扉は閉ざされていて、入ることはおろかその扉を開けることすら出来なかった。


僕と彼女は、はしごの部屋の床に座り一度落ち着くことにした。

ただ、何も話さないのもあれなので、とりあえず彼女に話をしてみることにした。


「近藤さん」

「なんですか……?」


いまさらだけれども、彼女はいったい何歳なんだろうか? 彼女の可愛さを際立たせている、下着姿はまるで年齢を隠す鎧のような役目をしている。もちろん身長が僕より少し低いぐらいだから、小学生とかそう言うことはないだろうけれども、たとえ小学生だとしても、僕はある意味で欲を沸かすと思う。もちろん性欲じゃない。どちらかというと食欲だ。


「近藤さんっていったい何歳なんですか?」

「あぁ……そういえば言ってなかったですね。佐藤さんはおいくつ何ですか? 私より多分年上だと思いますし」


この調子の感じ……彼女が小学生だという可能性がでてきてしまった。

だけれども、小学生があんなすごい下着を切るとは思えない。僕が見たことのあるそう言う雑誌じゃないと着ないようなものだぞ? 


「僕は、17歳だよ」

「あぁ! 17歳なんですか」

「?」


なぜ、彼女は僕の年齢にそんなにも食いつくのだんだ? 17歳フェチの女の子なのか?


「いやですね、私の兄も17歳なんで、ちょっとだけ親近感が湧いちゃいまして……」

「そうなんだ……」


やっぱりこの子は、お兄ちゃんのことが好きなんじゃないのか?


「ということは、近藤さんは15歳なのか」

「はい。今日ちょうど15歳になりました。まぁ、時間が確認できた時の話ですけれどもね」

「そりゃあ、災難だったね」

「はい……一生忘れられない誕生日になりそうですよ」


確かに、一生忘れられない誕生日になるだろうな。


           〇


「はぁ……」

「……」


空腹というものは、人を黙らせる力がある。いや、力を吸い取っているのか?

そう思わせるほど、怖いものだ。


会話なんてする気にはなれないし、むしろ力を温存しようと脳が自分を眠らそうとしてくるんだ。


「佐藤さん……」


睡魔という悪魔は、人を選ばない。


「私……眠くなっちゃいました」


雪山でもないのだから、寝てしまってもいいんだろうけれども、やっぱり眠ってしまわれると、少し寂しくなってしまう。会話をするというのはないけれども、相手が起きているというのはかなりの心の緩和になるんだ。


「眠らないでほしいな」

「でも……眠いです…………」


お願いだ……眠ってほしくないんだよ。


「………………」

「近藤さん?」

「……………………」


もう、彼女から返事はなかった。


「……メロンパンぅ」


とうとう、彼女はメロンパンという言葉を発した。どうやら本当に眠ってしまったようだ。

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