第16話 空腹のメロンパン

しかし、この新しい声。どこかできたことがあるんだけれども……一体どこで聞いたんだろ?


「君たちは、見事にあの部屋から脱出を果たした。まずは褒めてあげよう」


なぜか謎の声の主から、僕たちは褒められているけれども、全くうれしくない。

むしろ、腹立たしい気持ちで包まれているぐらいだ。


「君たちが今思っていることは手に取るようにわかる。私が、君たちと同じ立場だったら私もそんな風に思うからねぇ」


果たして、僕が今この声の主に言葉を返答してもこの声の主からは返答をえられるんだろうか? 


「だけれども、私にはやるべきことがあるんだ。その目的を達成するためには、君たちがそういう思いがあるということを知っていたとしてもやらなければいけないんだ」


声の主の一方的なしゃべりは続く。


「私はねぇ、あるものが見てみたいんだよ」

「あるもの?」


僕が声の主に返答をしても、声の主は返してくれない。


「ただ、今それを教えるのは少しもったいない気がするんだ。この部屋の電気はつけておく。何も、君達を苦しめたいがためにここに集めたわけじゃないんだ。必ずこの部屋にも、さっきの部屋と同じように隠し扉がある。それを見つけてくれたまえ」


なぜ、彼がそんな風に言ってくれたのかは分からない。もしかしたら彼はいい人なのかもしれない。だけれども、こちらの意見を聞くことをしない限り彼を信用することはできない。僕はもう少し、この場所そして声の主について考えなければいけないな。


「あと一つだけ言っておこう」


また声の主が話した。


「隠し扉はさっきの部屋のように床にはないから、床はいじらないでくれよ? 床を直すのって自分でやっても時間と手間がかかるし、業者に頼んでも金がかかるから」


どうやら彼は、悪役のようだけれども僕の知っている悪役とは違う悪役のようだ。


「佐藤さん……」


声の主の声がなくなった後、彼女は小さな声で僕の名前を呼ぶ。


「どうしたの?」


聞かずとも分かっている。どうせ、彼女はこの状況が怖いんだ。僕みたいにかなりの無神経になれば、そこまで気にすることじゃないけれども、純粋で綺麗で可愛い彼女にとっては、恐ろしい場所なんだろう。


「……お腹がすいちゃいました」


……なるほど。恐怖というものは、食欲も湧かすんだな。

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