第14話 メロンパン、震える

「とりあえず、ここ開けてみようか?」

「開けたらレーザー光線がバーッて、出てくるってことはないですかね?」

「さすがにそれはないと思うよ」

「本当ですか?」

「多分……ね」


彼女のちょっとした逝かれた考えに驚いたけれども、まぁいいとしよう。


扉は大きな正方形の形をしていて、扉は少し汚れていた。

扉を引っ張ると、そこにあったのはレーザー光線でもなくて、下へと続くはしごだった。はしごの他にも、その横には下へと延々と続く空いた空間があり、落ちたら即死と言ったところだろう。


「佐藤さん」


彼女ははしごの方を見て僕に問いかけてくる。


「私たちは今から、このはしごを下りるんですよね?」

「まぁ、そうなるよね」


なぜだかわからないけれども彼女の顔は徐々に赤くなっていく。


「どうしたの?」

「いや……ほら、はしごを下りるとなるとあれですよね……」

「?」


僕が鈍感なのかもしれないけれども、本当に彼女が顔を真っ赤にしている理由が分からないんだ。


「あぁ! もう、察してくださいよ!」

「何を察せというんだよ?」

「本当に佐藤さんはバカですよね……」 彼女は、僕のことをひどいもののように見てくる。


人に馬鹿といわれる、それも理由なく馬鹿といわれるのはかなりいやだけれども、それを否定することはできないから、あきらめよう。


「とりあえず、私が先に梯子を下りますから! 後から続いて来てくださいね!」

「……分かったよ」


僕としては、こう言ったときは男が下の安全を確認しながら下りていくというのが一番正しいと思うのだが、彼女がそういう風に言うんだったら、彼女の言葉を優先しなければいけないな。


「うぅ……」


はしごを下り始めると彼女は声を漏らしながら涙目になっている。

僕は彼女の頭が床よりもしたになったのを見計らって、はしごを下り始めた。


はしごを下りていっても中々下にはたどり着けず、下を見てみても彼女がぐすぐすと言いながら降りているのを見ているだけだった。

とりあえず今僕にできるのは、彼女の頭を踏まないように神経をとがらせることだけだった。


「あっ、あの、佐藤さん!」

「何?」

下の方から、泣き声交じりで僕の名前を呼ぶ声がする。それに反応して答えてみる。

「私、実はですね……」

彼女は、何かを言いかけていうのをやめてしまった。

「どうしたの? 近藤さん」

心配になったので、僕は彼女の名前を呼ぶ。


「実はですね、私……暗所恐怖症なんですよ」

「暗所恐怖症?」


高所恐怖症とかは聞いたことがあるけれども、暗所恐怖症は知らないな。


「私、暗いところがダメなんですよ!」


暗いところがダメなのか……。


「だから、これ以上下りていったら……だんだん暗くなっていてるし、動けなくなっちゃうと思います…………」

「えっ!?」


それはまずい。彼女が暗所恐怖症だということは知らなかったけれども、彼女が降りれなくなるというのは今一番困ることだ。


「どうしたら、いいと思いますかぁ佐藤さん……」


ほとんど泣いているような声で、彼女は僕に答えを仰いでくる。

確かに暗所恐怖症であればどんどん暗くなるというのは、地獄のような思いだろう。一気に辛くなるよりも、じわじわと辛くなる方が苦しいものがあるから、怖さでおびえて泣き出してしまうことは理解できる。

だけれども、それだからと言って下りなくてもいいとは言えないのが今の現状だ。

何か、恐怖を紛らわせることができればいいんだけれども……あっ! そうか!


「近藤さん」

「な、な、何ですか?」


案の定彼女は泣き声交じりで返してくる。


だから僕は、彼女を安心させるために

「なんで、寝言でメロンパンって言ってたか分かりますか?」

と、彼女に言ってみることにした。

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