第12話 メロンパンと対等に

何分間か泣き続けた後、僕は彼女の顔を見てみた。

すると彼女は、少し優しい笑顔で僕のことを見ていた。


「……やっぱり、あなたは変な人ですね」


普通であれば、変な人がいるのならば軽蔑し、遠ざけるだろう。だけれども、彼女は僕のそばにいてそして笑顔で僕のことを見てきた。それも、僕を軽蔑するような笑顔では無く、嫌味のない笑顔だった。


「変な人って……」

「変な人じゃないですか! 私のことをメロンパンって言ったり、いきなり結婚してくださいっていったら、いきなり泣き崩れてしまうなんて……」


彼女は笑いながらそう言ってくる。

なぜだろう。僕が混乱していたのが馬鹿らしく感じてくる。僕は、なんであんなにも混乱をしていたんだろう。彼女はこんなにも、環境に簡単に適応でいているというのに、僕は何で混乱してしまったんだろう。

すこし、後悔と悔しさがわいてきた。

彼女には出来て、僕には出来ない理由っていうのは何なんだろう。いったい……。


「ところで、佐藤さん」

「?」

「えっ? 佐藤さんじゃないんですか?」

「……いや、佐藤さんであっているけれども」


彼女が何で僕の名前を知っているのか一瞬分からなくなってしまったけれども、そう言えば最初に彼女に名前を告げたんだったな。


「なら、良かったです。佐藤さん」

「はい?」

「私の名前はメロンパンじゃないですからね!」

「は、はい」


彼女は強くメロンパンじゃないと否定する。ただ、そこまで否定されることをしているのだから、仕方がないな。確かに、いきなりメロンパンと言われて何回もそれを続けられれば、そう否定したくなるのも分かる。


「私の名前は、近藤友紀っていいます。メロンパンじゃないですからね!」

「はい……」

こんなにすんなりと話を進められて、こんなにすんなりと名前を言える……。すごいな。


「ところで、佐藤さん」

「?」

「佐藤さんは、なんで私がこんな格好になっているのかを知っていますか?」

「いや、知らないな」


僕は当然、そういう風にこたえる。


「疑わしいですねぇ」


彼女は案の定、疑いの目で僕のことを見てくる。


「本当だよ!」

「本当は嘘じゃないんですか?」

「嘘じゃないって!」


言い争いを始めると、彼女と僕の間にあった少しの隙間着実に埋まっていった。そして、彼女が「分かった……あなたが犯人じゃないことは分かったよ」と言うころには、もう僕も自然に彼女と会話できるまでになった。


「ようやく分かってくれたか」

「分かるっていうか……もう、どうでもよくなってきたっていうか……」


どうでもよくなってきたっていう理由で、分かったって言われるとなんか嫌だな。

とりあえず、自然に会話できるようになってよかったよ。紳士とか自分のことや彼女のことを中心に考えなくていいようになったんだから。僕は僕の、彼女は彼女の言いたいことを言えるようになったんだ。これで、色々とやりやすくなった。

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