第11話 メロンパン、襲われる
「はぁ?」
「だから、結婚をしてください」
人間というのは、最悪の状況、生命の危機に陥った場合、本能的に行うものがある。通常時では、社会的に見てもその行為は非常に非情な目で見られてしまう行為だが、その好意というのはこういった状況下では、むしろ歓迎されるものなんだ。僕は神や仏を信じるよりも、そのことを信じ続けている。素敵な信仰だよね。
だけれども、やっぱり心や言葉が通じなかったとしても、僕が紳士であることには変わりない。だからこそ、まずその行為を実行する前にやるべきことがある。やはり、段階を踏むというのは絶対的に必要なものだからな。
それが、なぜ結婚だというか。
「なんで、結婚しなきゃいけないんですか? 私の名前も分かっていない人と」
結婚とは、やっぱりね、習慣的にそう言うものだから、まぁ、あえては言わないけれども、そう言うことだから、やっぱりこれを一番にやっておかないといけないよね。うん。
「ねぇ? 聞いてますか?」
「聞くも何も、男女たるもの契りを結ばなければなりません」
「は?」
「このような状況下だからこそ、私たちは二人で一つになる必要があるんです!」
「ね……えっ?」
彼女が困惑したとして、彼女が言葉に出せない思いがあったとしても、通じる思いがなければ何も受け取ることが出来ない。思いというのは、口に出さなければ相手を動かすことはできない。相手を感じさせることもできない。だからこそ、僕はそのことを知ったうえで、わざと彼女の思いを無視することにする。
「さぁ、一緒になりましょう」
僕は、彼女に詰め寄る。
「えっ、いや、その、えぇ?」
彼女は、僕が詰め寄ると可愛い声を出して壁へと後ろ歩きで逃げていく。
そして、彼女が壁までたどり着きもう逃げ場がなくなった時、僕はあることを考えた。
そういえば、今の彼女の格好かなりすごい恰好。結婚をしたいという願望のためにここまでしたけれども、果たして彼女は今どう思っているのだろうかと?
ぶっちゃけた話、どこかのピンク色の漫画で見たことがあるようなシチュエーションだ。
そんなことを考えていると、彼女は床に女の子座りをして「やめ……て」と息を漏らしながら僕に言う。
僕は今、かなりやばい奴じゃないのか?
いや、かなりやばいんじゃない。ものすごく、とてつもなくやばい奴だ。
自分の意見を肯定するために、様々な事柄をよしとしてやってきたけれども、果たしてそれは実社会に出てもよしとされるような事柄だっただろうか。
いや、違う。こんなことは、普通じゃありえない。普通じゃ、やってはいけないようなことだ。僕は、何をやっているんだ。いつの間にか、自分のことばかりに気をとられていて、いつの間にか本当に正しいことと間違っていることが分からなくなってしまったんだ。
このイレギュラーな状況下に置かれ、僕は気づかないうちに心理的に、頭脳的に、精神的に混乱をしてしまい、こんな風な事態が起こしてしまったんだ。
僕は、今彼女に対して、何一つ紳士的なことをできてない。
僕は、自分のことを紳士と信じすぎるあまり、紳士というのを見失ってしまったんだ。
「ごめん」
「……えっ?」
彼女に謝罪をしたつもりはない。もちろん謝罪しなければいけないが、その前に自分に嘘をついていたことを謝りたかったんだ。自分自身に。
そして、僕は自分に謝罪をした後、なぜか泣き崩れてしまったんだ。
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