第10話 メロンパン、結婚
「あの?」
彼女は僕に聞いてくる。だけれども、僕は知っている。たとえ話をしたとしても、彼女とは心を通わすことはできないし、そもそも話が合わない。だから、話すだけ無駄だと。
たとえ僕が世界一、いや史上最高の紳士だとしても彼女の前では紳士であることは出来ない。だって、紳士というのは演じなければ出てこないものなんだ。むしろ自然と紳士的な振る舞いができるんであれば、それは一種の天才か、一種の病気か、一種の女子なのかもしれない。男たるもの、欲望を目の前にして行動を制限するには紳士を演じるしか他ないのだ。
ただ、演じるとなれば相手方の受け止めが必要になる。演じたものというのは相手の視覚や聴覚を通じて脳へと伝わり、相手はそれによって考え、演じたものがどういうものかを考えるのだ。だけれども、その考えが合わないのであれば、僕が演じたものをAとしても、相手にはBになってしまう。違うものになってしまうのに、演じる必要性はないのだ。
「メロンパンさん」
「だから、なんでメロンパンさんなんですか?」
とりあえず、僕は一度彼女の名前を言って落ち着くことにした。
「メロンパンさんには一つだけ言わなければいけないことがあるんです」
「?」
メロンパンさんに対しては紳士のような態度をとるよりも、いつもと同じ、自分がいつも使っているような態度をとることが、一番いい。初対面だからとりあえず敬語を使っているが、たぶん彼女の顔と体の成長具合からいくと、僕と同い年ぐらいの高校生だと推測できる。下半身の下着は普通のものだけれども、こういう状況だとかなりいやらしく感じる。もちろん、下着というだけでもいいんだけれども、その上のシャツがあるからこそこの状況下でも興奮ができるんだと思う。
ただ、僕がそんな恰好をさせたわけでは無いので、とりあえずそのことについて直接言わなくてはいけない。
「僕は、決して変態じゃないんだ。だから、そんな恰好にさせたのは僕じゃない」
こういう風に直接言う。普通であれば変わったやつだと思われてしまうが、もうすでに変わったやつ、変人、変態と思われてる僕には失うものはなかった。
「勘違いしないんで欲しいんだ。僕は決して君のことを、いたずらしようとかそう言うことは全く思ってないんだ」
「そうですか」
「この部屋のことについては全く知らないし、僕も今かなり困っているんだ」
「はぁ、そうですか」
「さっきも言った通り、君の格好のことも知らないし、というか君がメロンパンさんだということ以外は何も知らない。誘拐したわけでもないよ?」
「だから、なんでメロンパン……」
僕は紳士的ではないにせよ、彼女の誤解を解くために説得をした。
そして、僕はとりあえず彼女の警戒心を解くために、最高の言葉を贈ることにした。
これで、彼女の警戒心は解けるし、さらに言うとこの言葉によって彼女は僕のことを信頼してくれて、後の隠し扉を探す作業が楽になると思うんだ。
「メロンパンさん!」
「?」
案の定、僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女はキョトンとした顔をした。
「なんですか、もう。変な人ですね」 彼女は、言葉に出して僕のことを変な人と評価した。
だから、僕は思い切って言うことにした。
「結婚してください」
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