第9話 困惑のメロンパン
うん。なるほど。僕の期待していた通りの反応だ。
これは想定内の反応だ。
僕はわざと彼女に対して、彼女が「こいつおかしい」と思わせるような行動をとったんだ。
否定することは簡単にできる。誰もがまず、相手に誤解を与えてしまったら最初にすることはその誤解を解くことだ。だから人は簡単にその誤解を否定してしまうんだ。
だけれども、否定をしたところで彼女がそういう風に思ってしまったことは否定できない。たとえこっちがやろうと思ってやったことじゃないにせよ、彼女にそういう風に見えてしまったことを否定してしまっては、彼女は心のどこかにこの人に否定されてしまったと思ってしまうに違いない。
事実でないことを否定するのは間違っていない。しかし、紳士として相手を否定してしまうのは間違っている。
それらを総合的に判断したうえで、彼女の興味を引きそうな言葉というのは、彼女が寝てる間に繰り返しつぶやいていたメロンパンという言葉だ。
なぜ、彼女がメロンパンといっていたかは後々聞くことにするが、今はその魔法の言葉を使うことによって、状況を打開することにした。
ただ、今のところ彼女は確信しているはずだ。
だって、突然メロンパンと言ってくる奴が目の前にいるんだぜ? 誰でもおかしな奴だと思うよ。
わざとおかしな奴だと思わせることに、意義がある。
「あぁ、驚かせてしまってすみません」
「?」
まずは、軽く謝罪をする。もちろん、彼女は困惑をしているので僕の謝罪を理解はできない。これも、想定内だ。
「僕の名前は佐藤良太。高校生だ」
「は、はぁ……」
彼女は、僕の話を少しずつ理解できるようになってきている。これは、彼女の頭の中で少しずつ僕に対する印象が変わってきているということだ。
「僕はメロンパンが好きだ」
「そうなんですか……?」
とりあえず、使えるものは使っておこうと思う。何とかして話をそらそうとしているのは、秘密だ。
とりあえず、ここで彼女から新しい彼女の情報を得ようと思う。さすがに、メロンパンだけだと、話を進めるのが難しい。確かに、メロンパンは素敵な食べ物で、魔法の言葉にもなれるすごいものだけれども、彼女と会話をするには足りない部分がある。もう少し、あんパンだとかクリームパンだとか、焼きそばパンだとかが必要なんだ。
そこで、まず自己紹介をしたということで、相手の好みを知ることをしようと思う。最初に、質問するのはとりあえずド定番のものにしておこう。
「時にメロンパンさん」
「……はい?」
「好きな食べ物は、なんですか?」
「は?」
どうして、そんな顔をするんだ? なんでそんな変な顔をするんだ?
好きな食べ物といったら、一番答えやすいだろ。誰もが親しみを持ちやすい質問をしたつもりなんだが、何か彼女が困ることがあっただろうか?
「いや、好きな食べ物は何なのかが気になりましてですね、メロンパンさん」
「いやいやいや、なんでそういう話になるんですか? こういう状況なのに、なんでこう言う話をしようとするのか神経が分かりません。てか、なんでメロンパンさん?」
なるほど。多分、僕と彼女とは細胞レベルで話が合わないらしい。
彼女の言っている意味が僕の頭には理解できなかった。理解できなかったことにしておく。
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