第8話 ……メロンパン!
黙っている以外に何ができるといえるのだろう。今の今まで、僕は彼女に対して欲を出して、彼女を優先して行動をしてきた。彼女が安心してメロンパンといえる環境を作るために、頑張ってきたのだが、彼女に起きられてしまっては言葉を失ってしまう。
それ以外にも、彼女に勘違いをされていること(彼女のなんかすごい恰好)と彼女を放っておいて隠し扉を探したこと。もっというと、壁に向かって頑張るといっていたことを見られたこと。これらの、恥ずかしさをこれらの勘違いを含めて僕は今、何も言えずにただメロンパンを眺めている状態だ。
あえて言おう。さらに僕は、メロンパンに怪しまられていると。
「あの……?」
さすがの彼女も、困惑し始めてきた。さっきまでのしっかりとした感じから、目つきも声も怪しいやつに対するものに変わってきている。
決して僕は怪しいやつじゃないし、むしろ紳士だ。僕以上の紳士はたぶん世界中どこを探してもいないだろう。イギリス人なんて屁じゃない。
だから、本来であればこんなに彼女を困惑させてはいけないのだ。紳士たるもの、彼女の考えることを彼女が言う前に実行しなければいけない。今僕は、紳士としてあるまじき行動をとってしまっているのだ。
さて、ここで一つ考えるべきことがある。
この場合において。紳士としての品位がなくなった際、どのようにして紳士としての品位を取り戻すのか。それが、今考えるべき重要なことだ。
「ねぇ? 大丈夫?」
そう。紳士としては、まず彼女の考えの先を読まなくてはいけない。彼女が今考えていることは、僕が頭おかしいということだ。まず最初にやるべきことは、その考えを否定することだ。だけれども、どんな風に否定すればいいんだ?
「大丈夫! 僕は紳士だ」 これは直球的なもので、相手には伝わりやすけれども、変な奴という否定にはなっていない。だから、この言葉は没だな。
「変な奴じゃない! 僕は紳士だ」 これはさっき言葉を踏まえたうえで話すには一番直球的で一番いいものだけれども、やはり変な奴というのは隠しきれていない。むしろ変な奴じゃないと否定することによってさらに変な奴の感じが出てしまっている。これも使うことはできないな。
「僕は紳士だ」 これは、紳士だけに絞った言葉で直球すぎるものだ。だけれども意味としては一番相手に伝わりやすい。だが、黙っていた人間がいきなり「僕は紳士だ」だなんて言ったら、それこそ変な奴になってしまう。つまりは、これも没になる。
なら、何の言葉がいいんだ? 直球的なものがいいけれども、直球すぎると変な奴として再度誤解を受けてしまう。だけれども、伝えるには意味の分かる簡単なものがいいはずだ。
あっ! そうか。誤解を受けないように、まずは相手の警戒心を解けばいいんだ。
今の彼女は僕に対してかなり警戒をしているはずだ。変な格好にさせた(僕はさせていない)、変な言動をとるやつ(自らは望んでいない)と思っているのだから、まずはそれを直す前に、紳士の品位を取り戻す前に、彼女の警戒を解けばかなり物事がスムーズに動き始めると思う。
警戒心を解く方法。どこかのテレビでこんなことを聞いたことがある。警戒心を解くには、まず相手の共感を引くことが大切だと。
この時点で、僕が彼女のことについて知っていることが一つだけある。もしかしたら、これのために用意されていた鍵なのかもしれない。
さっそく、そのカギを使いたいと思う。
「……メロンパン!」
「……は?」
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