第5話 メロンパンによる支配

手当たり次第に壁を叩いた。パーではたいてみたり、グーで殴ってみたり、チョキで刺してみたりしてみた。それで分かったことは、チョキで壁を刺す行為だけは、絶対にやってはいけないということだ。突き指というのは、軽症であれば治るのが速いけれども、それにしては痛みが大きいけがの一つだ。突き指したから辛い! と言っても、そこまで周りに心配されることはない。やっぱりけがの代表格の骨折や捻挫に比べるとまだまだのけがなんだろう。


壁を調べる終わった後、次に調べる場所は床だ。

床にはもちろんだが、さっきから言っている通り何もない(メロンパンを除いて)。だけれども、隠されている階段がないとは否定できない。

もしかしたら、という曖昧な考えに基づく行動だけれども、いつだって人はその曖昧な考えによって大胆な行動をしているのだと僕は思う。


ただ、一つだけ床に関して気がかりなことがある。それはこの床の固さについてだ。

この床は、壁と同じでかなり固くできていてたぶんコンクリート製だと思う。それだけであれば、別にどうってことはないんだけれども、この床、なぜかコンクリートの上にゴムのようなものが敷かれているんだ。なぜコンクリートの上にゴムが敷かれているのにコンクリートの存在が分かったかというと、端っこの方に少しコンクリートの部分があり、そこを触ってみたら壁と同じような感じがしたので、そう思った次第だ。

一つの床が二種類の素材でできているとは思えないし、ゴムで上を敷いていると考えられるだろう。

なぜ、コンクリート上にゴムを敷かなければいけないのか? 

その理由を僕は、こう考える。コンクリート部分に何か隠されていて、それを見つからないようにするため、そして隠している部分とコンクリートの普通の部分の固さの違いが分からないようにするためだと思う。

だから、こそ僕はこのゴムを取り外さなければいけないんだ。

ただ、このゴムを外す際に、彼女に何かあってはいけない。

もちろん、彼女の寝顔を守りたいという欲望的なものもある。だけれども、一番怖いのは、ゴムを外している最中に彼女が目覚めて僕の方を見ているときに「なんで床をはがしているんだ?」と思われてしまうことだ。理由を説明しても、「それだったらなぜ私を先に助けないの?」とか言われてしまったら、僕、どうしようもなくなってしまうからな。

慎重に慎重を重ねてゴムを取り除かなければいけない。


僕はいつの間にか、メロンパンに自然に行動を支配されてしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る