第14話 曲がる刃

またここか。そう思ったロム。

ここはナントラットの奥深く、以前来た場所とはまた違う場所らしい。

広場は無く、そこらじゅう木があるだけであった。

木の香りとここ特有の鳥の声を聴くと気だるさがロムを包んだ。

日が出たばかりで、少し肌寒い。

霧がこの場を漂っており、不気味さを感じる。

「ありがとう、カインド。折角だから私たちの試合見てきなよ。」

歪む空間が消えるのを見届け、ジェスは言った。

カインドはその言葉には反応を示さず、空中に腰かけ本を読み始めた。

「冷たいやつ。さあ、あんな奴ほっといて始めましょう!」

腰に差すレイピアを引き抜き、構えると思いきや

両手を空に掲げている。

「久しぶりの好敵手かも!きゃー!嬉しい!」

体じたばたさせ、全身で嬉しさを表現しているようだ。

ロムには魅力的にも見えたがあの時の笑みを思い出し

身を震わせた。

「ごめんなさい、ついうれしくって。」

「問題ない。さあ、始めよう。」


風は無い、地面も良い踏み心地だ。

ロムはカタナを握り、考えた。

一体どう曲がるのか、ただそれだけを。

今後の旅に深手を負いたくないため、いつも以上に慎重である。

体が内側から熱くなり、緊張感と高揚感を覚える。

ジェスも先ほどのウキウキモードは冷めたかのように

冷酷な目に変わっている。しかし、その中にまっすぐな意思を感じる。

先に仕掛けたのはジェスの方だ。

肘を脇に絞めるように曲げ、レイピアの剣先をロムに向け

そのまま貫く勢いで突撃してきた。

速さはジーランド以上あり、すかさずロムは防御態勢をとる。

上下左右と剣先をさばき、姿勢と思考を整えた。

こいつ、動きは速いがパワー不足だな。ここは少し押すか。

ロムは左胸辺りに襲い掛かってくる細い刀身を

瞬時に左回転させた峰で強めにはじき、

肩から腰に掛け無防備な状態にカタナを引こうとした瞬間

ロムのカタナに何かが絡みつき動きが止まる。

ジェスのも持っていたレイピアの刀身は支柱に絡みつく

アサガオのつるの如くロムのカタナに絡まっていた。

「流石、ジーランドとほぼ互角に戦っただけあるわね。

これが私の剣。ヴァインソードよ!

固さは変わらず、しなやかさと少しならリーチも長くなる。

ロム君やジ…お頭はキューブだけど私のは元からこういう形をしているわ。」

絡みついたツタを思いっきり下に振りその勢いでロムの後ろに着地した。

「この武器は元から内部に魔法の力が内蔵してあり、完成体となってるわ。

だからキューブのように変化はできない。旧式の武器と言ったところね。」

自慢げに話すジェスの説明を聞いたロムはやっと腑に落ちる回答を

見つけ出すことができ、心の小さなわだかまりがなくなった。

「なるほど、そうだったのか。あのさ、これって他の人にばらしちゃっていいの?」

一瞬きょとんとしたジェスだったがそれはすぐに笑い声と変わった。

「アハハハハハ!!そんなこと気にする人初めて見たわ!

君っていつもムスッとした顔してるけど根はいい人だね。

なんか戦う気無くなっちゃったよ。」

刃を鞘に納めたジェスはすらりすらりと木の幹に近づきその場に座り込んだ。

「物足りなさそうな顔ね。

私は一回満足しちゃうとそれ以上動かないタイプなんでね、

カインド、申し訳ないんだけどロム君の相手してあげて。」

ジェスに子供扱いされたロムが腹を立てていると

持っていたはず本が両手どこにも持っていない

カインドがロムに向かって歩いてくる。

どうやら準備は満タンらしい。

口は開かないもののその目が雰囲気が物語っている。

この森がいきなり嫌悪感に包まれるかのように霧が深くなっていった。







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