第11話 両方の力

 町を離れ、再び<ドウラス>向かう。

 今度のパートナーは銀色ではなく、褐色の少女だ。


 あの後ロムはナナをこの当てのない旅に誘ったのだ。

 何故かはロム自身も分からない。

 しかしロムの中にはこの少女と行かなくてならない

 ただならぬ使命感を感じた。

 ナナは二つ返事で誘いを受ける。

 屈託のない彼女の笑顔がロムに向けられた。


 <ドウラス>に向かう途中、太陽が地に沈み始め

 辺り一帯が暗くなり始める。

 周りにはこれといった宿泊施設はなく、

 あるのはロムたちの前を伸びる一本道と

 それを阻むことなく横に生い茂る草たちだ。

「ここで野宿するしかないな。」

 ロムは道から外れ、ポケットからキューブを取り出す。

 キューブを地面に落とすと光放ちながら形が変化し

 布でできているかのような見た目の四角い形をしたテントが

 目の前に現れた。

 ロムはもう一個のキューブを使おうとするが

 何の反応も示さない。

「まだあなたには早いかもです。それ。」

 ナナが横からひょっこり現れ、キューブを観察する。

「どうしてだ、何故まだ早いんだ?」

「そのうちわかると思います。それまで待ってください。」

 ナナの腑に落ちない答えにロムは再び質問しようとは思わなかった。

 隠されたことをしつこく問おうとしても

 結局は納得する答えは返ってこないだろう。

 ロムはタナカと経験でこれ以上質問する気にはなれなかった。

 空には小さく数多に光り輝く宝石たちが黒い空にちりばめられている。

 夜が始まった。


 二人はテントに入った。

 天井にはランプが吊るされており、部屋全体を明るく照らす。

 床には何枚か布が敷かれて、布団、毛布が各一つずつ置かれている。

 宿から持ち出したカジュアルなポシェットの中を

 ゴソゴソと探りながらナナはロムに聞いた。

「あのー、もしかしてあなたとここで二人で寝るんですか…?」

「嫌なら俺は外で寝るよ。」

 ナナはポシェットから手を放しロムに目を向け

 おたふたしながら答える。

「ち、ちがいます!その、いや、何でもないです…」

 再びポシェットに手を伸ばし、作業に取り掛かった。

 ナナは多分、こうして屋根の下父親以外の異性と寝たことがないのだろう。

 それならロム自身も初めてである。

 しかし、恋人でも何でもない以上変に意識する必要も無いし

 なおかつ今の状況下では「仕方ない」ということあって

 ロムはなんとも思っていない。


 ナナがポシェットから板のような物を取り出した。

 角が丸い長方形型の板だ。

 彼女の左手が板の背を持ち、右手の指で表面をなぞる。

 ロムが覗いて見ると、ナナのしなやかな指が画面に触れると

 そこにある何かが反応し、動き始める。

 なんとも奇妙なものだ。ロムは一人感心する。

 ナナが振り向き少しびっくりした様子をロムに見せるが

 再び板に目を戻し、説明してくれた。

「これは<ボード>といいます。

 キューブは自分の思った通りの物に変化します。」

 そう言うと、ポシェットから小さな箱を取り出し

 中に入ってるの物を取り出した。

 指先から第一関節くらいの薄い正方形だ。

「これは<チップ>と言って、このボードに情報を与える

 小さくも優秀な素材です。

 これをこのボードに読み込ませ、」

 ナナがチップをボードの横にある凹凸に差し込む。

「そうすると今チップから読み込んだ情報と

 全く同じものを生成することができます。」

 ボードから無数の光線がチップの情報を元に

 輪郭を作っていく。

 やがてそれは木のスプーンと木の器となった。

 器の中には白いドロッとした液状のものや野菜を一口サイズに

 カットしたものが入っている。

「出発してからろくなもの食べていなかったので、

 せっかくですし、食べながら続きを話しましょう。」

 はい、と言われナナから渡された器とスプーンを受け取り

 ロムは甘く香る白い液体を口にした。

「うまい」

 ロムの口から自然に出た言葉だった。

 乳の甘くコクのある味に野菜の煮たときに出る甘味が加わり

 空腹の腹を幸せで満たした。

「これは<シチュー>と言います。とってもおいしいですよね!」

 キラキラしたナナの目がロムをじっと見つめた。

 ロムもコクコクと頷きシチューを頬張る。

「チップの読み込み方はいたって簡単。

 先端に分析したいもの触れされ、あとは軽く握るだけ。

 そうすると圧力で反応し、チップが情報をコピーします。」

 そう言い終えると、ナナはボードを使い自分の分のシチューを

 作り出し、待ってましたと言わんばかりの食いっぷりを見せた。


「何か聞きたいこととかありますか?」

 寝床についたロムにナナが問いかける。

「いきなりどうした。」

「いつも何か物事を考えている気がしたので。

 役に立てればいいなと思って。」

 愚問だったなとロムは心の中で呟き

 Different colorについて聞いた。

「Different colorとはこの世の異端児、常識を覆す者の事ですね。

 魔法を操り、道具を操る。

 私の父が母を殺し完成させた道具が

 あなたが持っているキューブとグローブです。

 父の道具を操る力と母の魔法を操る力の結晶体です。

 この道具を操る者がDifferent colorと世間では言われます。

 世間でこれが今以上に出回ってしまえば世界の秩序は乱れ、

 混乱してしまうでしょう。

 もしかしたらまた大きな戦争が起きてしまうかもしれません。」

 ここまで大きなことにロム自身、首を突っ込んでいたとは思わなかった。

「どうやらあなたもタナカから受けとったんですよね。

 今、タナカが世界を誰かに道具を渡しながら飛び回っています。

 これを私たちで止めなくてはならないのです。

 だから、私はあなたから話を聞いたとき少しばかり怒りを感じました。

 しかしあなたはその力で悪さをするのではなく

 人を、私を助けてくれました。

 そしてあなたは私をこの旅に誘ってくれました。

 本当に嬉しかった。ありがとうございます。」

 心の奥底にある言葉の数々が一つ一つナナの口からこぼれ出た。

 黙って聞いていたロムの口が開き、

「要はタナカをぶっ飛ばせばいいんだな。

 あとひとつ、”あなた”じゃなくて名前で呼んでくれないか。

 一緒に旅するんだし、俺には列記とした”ロム”という名前がある。

 これからよろしく頼むよ、ナナ。」

 ナナに手を差し伸べた。

「よろしくお願いします。ロムさん。」

 ナナは泣かまいと必死にこらえながら言葉を振り絞った。
















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