第8話 小さな宿の小さな女将
騒々しい朝を迎えることになってしまった。
外からなにやら騒ぎ声が聞こえる。
ロムはローブを身に着け、外に出ると大男2人と昨晩の女の子だ。
2つの巨体が小さな体を覆い隠すように
女の子は壁に背中をつけ、男たちは脅迫するような感じで迫っていた。
「おいおい、まだこの宿やってたんかよ。
いつになったら店じまいするんだ。あぁん!!」
男が言い放ち、壁を殴った。
女の子はさらに怯え、目には涙を浮かべている。
「いつになったら借金返してくれるんだろうね~??
まさか返さねえなんて考えてるんじゃあねえんだろうな!
親がいなくなったから返せない?
ふざけんじゃねえぞ!コラァ!
てめえの親のケツくらい子供のお前が拭えってんだよ!」
もう一人の男が少女の顔面めがけて拳を放った。
その瞬間、男の腕が空中に舞った。
「弱いものイジメは良くないぜ。お二人さん。
ましてや女の子。性根腐り過ぎじゃない?」
ロムの手にはカタナが握られており、
言葉には怒りが込められていた。
腕を切られた男は悲鳴を上げ、涙を流している。
少女は返り血を浴び、唖然としていた。
「テメェ!いきなりなにしやがる!
よくも首突っ込んできやがって!
ぶっ殺してやんよ!」
もう一人の男が服の中からナイフを取り出し、
ロムに向かって歩き始めようとしたが、
「な…!足が動かん。何ぃ!足が凍っている!?」
男のふとももまで氷に包み込まれ身動きが取れない状況になっていた。
「どうやらお前たちは幾度となくここに来ては
こういうつまんねえことをしていくんだな。」
ロムはついでにと男の腕も凍らせ、
カタナの刃を男の首筋に突き付けた。
「いいか、次こんなことしてみろ。俺はお前らを殺す…」
男の手足にかけた魔法を解き、カタナをキューブに戻した。
大の大人が情けない顔を晒ながらこの場から去って行った。
「顔が血に染まってる。これで拭け。」
少女は無言で受け取り、顔を拭いた。
「私はナナ。お兄さんには名前を教えてあげる。」
ナナの小さな声が耳をかすめた。
「そうか。俺の名前はロム。」
「ロムか。いい名前だね。」
ナナがにっこりと笑う。
そこでロムは違和感を感じた。
肌の色も髪の毛も変わっていないが、最初に会った時より身長も伸びていて
笑顔には子供特有の無邪気さというよりも凛とした美しさを感じる。
「なあ、変なこと言うようだけど、昨日の人よりも大人びて見える。」
そう言うと、ナナは驚き頬を赤らめた。
「そ、その~、実を言うと。
昨日色々と道具の整理をしてて、喉が渇いたから近くにあった液体を
飲んだら見た目が幼くなってしまって…
お客様用に作ろうとしてる若返る薬の試作品を飲んでしまいました…
完全に飲んだことを忘れていました。
すいませんでした!」
ロムは目の前で頭を地面につけるナナに圧倒されつつ
「いやいや、謝らなくて大丈夫だから。
それにしても、殴られたのによくもこんな元気だね。」
ナナは立ち上がり、胸を張った。
身長はロムと同じくらいだ。
「慣れてますから!」
「じゃあ、なんで目に涙を浮かべていたんだ。」
「あー、えっと、不可抗力ってやつです。」
「そうか。無理はするなよ。」
「貴方って優しいんですね。」
「別に。同じ境遇のやつに同情してるだけだ。」
ロムは自分で言ったことに羞恥心が生まれ
その場を早歩きで去ろうとした。
「待ってください!もう少しゆっくりしていって下さい。
貴方と沢山話したいです。」
ナナが寂しそうな顔でこちらを見ている。
ロムは頭をかき、
「そうだな。お言葉に甘えるとするか。」
再び小さな宿にお邪魔することとなった。
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