第6話 ハザード一派
小さくも大きな光ある町<ドウラス>。
町の真ん中に噴水広場があり、その周りには店が沢山あり、
とても活気あふれる町だった。
噴水広場を除けば、他の町とは大差ない風景である。
そんな生き生きとした町がロムの目の前にはなく、
あるのは水の出ない噴水とその中に溜まる白骨の数々、
そして人気を感じさせない町の風景だった。
それにしても、紙に書いてあった魔物が見当たらない。
町の真ん中に来たにもかかわらず、生き物の姿を何一つ見ていない。
奇妙だ。
ロムは辺りを見渡しながらこの感触を不思議に思っていた。
「少年よ。いつまでここにいるんだ。
折角見逃してやろうと思ったのにいつまでも私達の縄張りをうろついて。
何しに来た…?」
今まで誰もいなかったはずの風景が歪み始め、
そこから沢山の魔物たちが出てきた。
どうやら声の主は最後に出てきた魔物たちの長らしい。
本の中に出てくる海賊のような格好をしており、
灰色と白が混じる毛並みの狼顔の左目には眼帯を着けており、
体格もタナカ並みに大きく、
長としての風格がこれでもかというくらい伝わってくる。
他の奴らも同じような格好をしているが、毛並みが黄色や茶色など、
狐に近い姿であり、眼帯を着けている者も長以外誰もいない。
風が吹き始め、静まり返ったこの場の空気をなでる。
雲も出てき始めた。昼間なのに少し暗くなりつつある。
ロムは相手を警戒しつつ狼顔に質問を投げかけた。
「ここの住人はどこに行った。」
「知らないな。俺たちが初めてここに来た時にはもう誰もいなくなっていた。
なんだ?疑っているのか?」
鋭い眼差しがロムに突き刺さる。
「おっと、これは失礼。私の名はジーランド。
《ハザード》の総隊長を務めてる。君の名を教えてもらおう。」
<ハザード>ロムと似た人型だが、顔は狼というハーフな奴らを集めた部隊で
そいつらの生い立ちは実験の失敗作や、人と狼のハーフなど
多くの噂は浮き出るものの、真実は今だ彼ら自身しか知らず
謎多き部隊である。
ジーランドは背中に担いでいる大剣を鞘から抜き、
切っ先をロムに向けた。
「俺の名前はロム。お前たちでこの新しい力を試させてもらう。」
ロムはポケットから出したキューブを空に放ち、カタナを手に取った。
「そのカタナ、貴様タナカと面識があるのか!?
そうか、実に面白い!その力、私に見せてみよ!」
「ちょっと待ってください!!お頭!」
お互い剣先を下ろし、声の方を見ると
狼集団から出てくる者がいた。
「お頭がわざわざ出ることはねぇ。このガルバに任せてください。」
ジーランドより二回りほど小さい。いやこれが普通の大きさなのだろう。
俺より少し大きいし。
ロムは自分の身長と比べ、少し妬ましく思った。
赤と白の毛並みに、左右の腰骨辺りに差してある刃むき出しのサーベル。
ガルバ、人呼んで双剣の悪魔。
血気溢れる者たちを集めた精鋭部隊、<紅隊>の隊長。
とても好戦的で、その双剣を構えられた者は最後
四肢を切断され見るも無惨な姿にされるという
グロテスクとサディスティックの塊である。
「相変わらず戦うのが好きだね。ガルバ。」
少し小柄で凛々しさのなかに可愛さがある女狼だ。
毛並みは黒に少し白が加わっている。
ジェス、人呼んで黒き剣魔術師。
女だけの部隊、<女狼隊>の隊長。
ジハードの中では剣さばきの速さはNo.1である。
そして、戦ったやつは皆口をそろえて、
「剣が曲がった。」という。
まるで魔法を使ったかのような不可思議さがあるのだという。
武器は右腰に差す、赤い鞘に納まるレイピアだ。
女狼はロムの観察眼に気付き笑顔を向けたつもりだが、
ロムはその口からひょっこりと顔を出す鋭い牙に恐怖を持った。
「私、ジェス。よろしくね。」
「これから殺す相手に挨拶か…ジェスは相変わらずおかしなことをするな…」
ガルバと同じくらいの大きさで細身。
毛並みは青と白である。
カインド、人呼んで寡黙の賢者。
魔法を駆使して戦闘支援を主に行う。
魔法を使える者たちを集めた部隊、<魔法部隊>の隊長。
魔法にも攻撃型魔法だけでなく、支援型魔法というものがある。
支援型魔法は主に回復や身体強化、トラップなどの
味方支援や牽制、その他もろもろ使い道が多くある応用がとても効く魔法である。
武器は腰の後ろに差してあるダガー一本。
魔法部隊の中で唯一、攻撃型魔法を使わず
戦闘で相手を殺したことはない。
戦場では、ただただ黙って支援を行う。
何故攻撃型魔法を使わないかというと、
本人曰く、
「味方を助けるほうが楽しい…それにあっちはめんどくさい…」
とのことである。
「お頭、お願いします!俺にやらせてください。」
「そうだな、ロムの戦闘能力を見る分にもちょうどいい。」
ジーランドは大剣を鞘に納め、その場から身を引いた。
ガルバは舌を出しロムを見下すような笑みを浮かべ
サーベルを両手に持った。
ロムも下ろしていたカタナを再び構え、相手との間合いを取った。
「そんじゃあ、俺から行くぜぇ!!」
ガルバは2つのサーベルを飛びかかるようにしてロムに振り下ろした。
ロムは思った以上の速さに動揺してしまい、
カタナを横にし守りの姿勢になってしまった。
金属同士が共鳴しギチギチと音がなる中、
ロムはつばぜり合いは不利と感じ
ガルバを蹴っ飛ばしお互い踏み込まなければ届かない間合いを取った。
ロムはある作戦を思いつき、
カタナをキューブに戻し、ポケットの中に入れた。
「何してんだお前!!ふざけんじゃねえぞ!
まさかさっきの一撃でびびって降参か。どっちにしろ俺はお前を殺すまで戦う。」
ガルバは怒りの矛先をロムに向け弾丸の如く再び突撃した。
「丸腰になったこと後悔しろ!そして…」
その瞬間、ガルバの目の前に黒い影が見えた。
それをロムと認識するには時間が足りなく、
「空を拝ませてやるよ。」
ロムは呟き、ガルバの首に雷をまとわせた腕を思いっきり打ち付け
地面にそのまま叩きつけた。
地面に蜘蛛の巣の様なヒビが入り、轟音が鳴り響いた。
その衝撃と電撃に耐え切れずガルバは舌を出し気絶した。
そこにいたはずのロムが光と共に消え、ガルバの頭部の横にキューブが落ちた。
本物は相手の不意を突くことができ、キューブをポケットに入れていた場所で
一人安堵していた。
「なかなかの頭の働き具合だな。」
戦いを見ていたジーランドが口を開いた。
「まさかキューブに雷をまとわせ、相手に投げつけて分身に攻撃させるとはな。
ただの打撃ならまだガルバもまだ立てるはずだが、
雷付きとは、これまた強烈な一撃となったであろう。
随分と面白い戦い方をする。流石、タナカと関わっただけあるな。」
ジーランドは高らかに笑った。
しかしその他のハザードの連中はロムに驚愕し、唖然とし、恐怖を覚えた。
中には腰を抜かす者もいた。
紅隊のリーダーがこんなにもあっさり見知らぬ少年に敗北した姿を
さらせば仕方のないことだろう。
「ロム、私は貴様が気に入った!
今すぐ戦いたいがこっちにも色々と時間があってな。
ガルバの仇は後で取らせてもらう。
1週間後、再びこの場所に来い。楽しみにしているぞ。」
ジーランドはカインドに視線を送り
それを受け取ったカインドは右手を何もないところにかざすと
右手の先の景色が歪み、真っ黒な空間が形成された。
「また会おう。」
そう言い残し、ハザードの連中は真っ黒の中に入って行った。
さっきのも魔法なのか。勉強になったな。
ロムは心の中で呟き、晴れ渡った空を見上げた。
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