第3話 常識外れのタナカ

ロムとタナカは夜のコークから去り、

そこから遠く離れた森林地帯<ナントラット>に向かった。

向かう途中、夜が明け太陽が顔を出し始めた。

ロムは行き先に疑問を持った。

「なぜナントラットに向かうんだ?もっといい場所があるはずだろ。

なんならまだコークのほうがよかったはずだ。」

タナカは太陽の光で再び光り始めたカブトをにょっとこちらの鼻先近くまで近づけ、

「自然の力を借り、習得するのだ真の力を!

なんちゃって。あははははははは!!!」

真面目なのかふざけているのかわからなくなるのはしかたないことだろう。

しかしロムはまんざらでもなかった。

家族から見捨てられ、孤独だった中、一筋の光が差してきたが如く

目の前に現れたタナカの存在。

ロムはとても嬉しかった。

こんなことを考えるのは温かい朝日のせいなのか、ロムは少し気恥ずかしくなった。


「それでは修行を始める!」

タナカの声が木々を震わせた。

ここはナントラットの奥地にある小さな広場である。

といっても何にもない風通しの良い原っぱだ。

「こんなとこで何をするんだ。」

「まず深呼吸。スー、ハー、スー、ハー。」

何の意味があるのかわからないがとりあえず真似をする。

「俺に魔法を唱えてみろ。」

「いや、使えないんだって。」

「いいから唱えたまえ。」

表情の無い仮面に気圧されロムは渋々唱えることにした。

本からの知識をもとにその力を外に放出しようとしたがやはり出ない。

「言った通りだろ。俺は魔法を使えない。だから捨てられたんだ。」

怒りを含めタナカにぶつけた。

タナカはその言葉には反応せず、何事もなかったかのようにロムに言った。

「貴方は頭で考えすぎです。魔法とはこのようにやるのですYO!」

両手の拳を胸の前で合わせると、そこから炎や雷、氷の結晶が現れ

タナカの全身を包み込み、消えていった。

美しく力強く、なんとも儚いものにロムは見えた。

「なんだ今の!!どうやってやったんだ!?」

今まで見たことのない魔法を見てそう言わずにはいられなかった。

「通常の魔法使いには一度で1属性の魔法しか使えない。

せいぜい2つが限界でしょう。

しかぁぁぁぁし!気合いとこの手があれば魔法なんてちょちょいのちょいです!」

炎、氷、雷とこう言った魔法を攻撃型魔法といい、

それぞれ使える魔法が決まっている。

それ以外の魔法も沢山あるがのちのち紹介しよう。

攻撃型魔法はその魔法使いの運命なのだ。

ロムの育ったサンナ家は雷の血筋である。

しかし、この運命から逃れ、属性を二つ持つ者も現れる。

それはとても稀なことでロムは見たことがなかった。

だから、タナカがやっていたことが運命から、常識から外れすぎていて

ロムは驚愕することしかできなかった。

「まず貴方にこれを差し上げます。」

ロムはタナカから左にR、右にMと白文字で書いてある黒光りハンドグローブと

手のひらサイズの真っ白のキューブをもらった。

「ご丁寧に自分のアルファベットが入ってる。

この二つはどーやってつかうんだ。」

銀色をガチャガチャ鳴らし、待ってましたと言わんばかりに胸を張り

こちらギロッと見た。

「説明しよう!まずこのグローブ。

これは君の内に秘めた魔法エネルギーを君の得意な頭で考え、外に放出する。

そしてこのキューブは君が考える形状に変化する。

剣にもなれば、このようなオシャレな私のヘルメットにもなる!

使い方は自由、応用が利くとても良い品だ。

これこそ、道具を操る種族と魔法を操る種族のいいとこどりツールだぜ!」

ロムは疑問を持った。

なぜこいつはこんなものを持っている。

2つの種族が共同開発した品物なんて聞いたことがない。

いくら関係が回復したとはいえ、昔の因縁は存在し

自分たちの仲間を葬った力をわざわざ結集なんかさせないはずだ。

それに見る限り手は義手になっており

同じ仕掛けか、はたまた何らかの理由で魔法が使える。

そしてあの時味わった感覚。

「タナカ、この道具はどこから手に入れてきた。」

「秘密です♡」

「お前が魔法を使える仕組みはなんだ。」

「秘密です♡」

「お前は一体何者だ!」

「秘密です♡」

「一つくらい教えてくれたっていいじゃないか。」

「秘密です♡」

ラチがあかないことを悟ったロムは自ら身を引いた。

モヤモヤは晴れないが、こいつなら俺の運命をかえてくれるはずだ。

ロムはそう思った。

「グローブを身に着けてください。修行再開です!」

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