第10話 夜


「そうか、そんなことがあったんだな。」


落ち着いたエリスに事情を説明する。今日で三度目の説明である。


「はい。そして!お二人がこのギルドに入ってくれることになったのです!」

「本当にウチなんかで良いのか?こちらは願っても無いのだが...」


この問いも三度目である。二人は流石に苦笑する。


「あぁ男に二言はねぇよ。俺がこのギルドを手伝うって言ったんだ、何がなんでも活躍して見せるさ」

「私もまだ魔法使えないけどたくさん働く予定だからよろしくね!」

「あぁ、ありがとう。そうだ!今日は銀貨3枚稼いで来たんだ!いつもより少しは奮発してもいいんじゃないか!?歓迎会でもしようではないか!」

「まあ、銀貨3枚の歓迎会なんかたかが知れてるのだけれどね」


スルタナが結構きついことを言うが、他のメンバーはお構いなしだ。


「良いですね!ハルトさんが稼いでくれた分もありますし、パーっと盛り上がりましょう!」

「そうだそうだ!...ん?ハルトが稼いだだと?」

「はい!ハルトさん、一人でジャイアントボアを倒して、銀貨25枚で売ってもらっちゃいました!」

「25枚!?一日で、と言うか、1体で!?え、一人で倒したのか!?じゃあさっきセントラルで捌いてたあのジャイアントボアはハルトが!?」

「あぁ、多分俺だな。いや、確実に俺か」

「...新しく入ってきたメンバーがいきなり25枚で、私なんか3枚で喜んでいたのか、ハハハ、はぁ...」

「お、おい、ちょ...」

「...私なんかグリンモンキーを一日中追いかけて、倒したのが3体だぞ?ふっ、情けないな。それも新メンバーがもっと大物取ってきてくれる始末か。こんなのがギルド長だからこんな貧乏なのかな。それとも私が...」

「落ち着いてエリス!このままじゃ君二人に情緒不安定な人として見られるようになっちゃうよ!!」

「そうだな...もういっそそれでもいいかもしれない」

「良いわけあるか!還ってこいエリス!!」

「まあ、俺もエリスも稼げばいつもより楽できるってもんだろ」

「ハルトぉ、君は優しいな。こんな使えない私に気を遣ってくれるなんて、」

「当たり前だ、こんなしんどいギルドの長やってんだろ?頑張ってるじゃねーか」

「そーそー!私なんかまだなにもできないからね!頑張ってくれてるエリスがそんなこと言ってたら私もう生きられないよ?」

「ふふ、ありがとう ハルト、トーマ。目が覚めたよ。情けない姿を晒した。ハルトは強いんだな。今度見てみたいものだ。では、これからパーティーの準備をしよう!スルタナ!頼んだぞ!」

「はいはい。まったく、料理はもう作ってあるから、今日はダメだけど明日にしましょう。それじゃあご飯の準備ね」


あっさりとギルド長の言うことを流して夕飯の準備を進めるスルタナ。

そして、スルタナによって人数分の料理が並べられる。


「俺たちの分もあるのか?」

「お皿とかはあるわよ。昔はもう少しメンバーもいたから。料理も心配しないで。多目に作ってあるから。どうせ対したものじゃ無いんだけど。」


上品にクスッと笑うスルタナ。


「じゃあ遠慮なく」


全員分の料理が並べられたのを確認し、みんなで食べ始める。スープのようなものと、パンの簡素な晩御飯だ。まだ時間は早いが電気がないからきっと寝るのも早いのだろう。


「!!うまいな、このスープの味付けはすごく好きな味だ。」

「ほんとだー!スルタナ料理うまいんだね!今度教えてね!」

「ふふふ、ありがと。こんな粗末なものしかないけど気持ちだけでも嬉しいわ。」

「こんな粗末なものばかりでこの味が出せるのだから流石スルタナさんですね!」

「ボクもスルタナの料理好きだよ!」

「うむ。いつもありがとうスルタナ」

「どうしたのよ、みんな。いつになく褒めてくれるし、流石に照れちゃうわ」


本当に照れているのだろう。顔がさっきよりも赤くなっている。

これをチャンスと見たハルト。


「なんだ?スルタナ照れてるのか、かわいいな!」

「「「「「へ?」」」」」


ハルト以外の全員の声が重なった。勿論スルタナも、である。


「なんだよみんなして。さっきの魔法のくだりの仕返しだよ!借りはすぐに返す主義なんだ。」


あぁ、とその時いなかったエリス以外、会話を思いだし納得する。


「私が来る前のことかな?それなら仕方ないな。」

「そっか、エリスいなかったな。悪い。」

「いや、気にするな。その代わりその話を聞かせてくれ。」

「あぁわかった。...にしても、全員で変な声出すとは思わなかったな」


ギクッ

と少しだけ戸惑うギルド内。それはハルトには伝わっていないだろう。今はエリスと楽しそうに話しているハルトを見て、ほっと一息ついていた。




そのあとも他愛もない話や、この世界についてもう少し聞き、食べ終わる。片付けが終わると、


「いや、今日は疲れたな。」

「それはそーですよね。今日はもうお休みになりますか?」

「そーするかなー。トーマはどーする?」

「私?私も寝たいかなー」

「では2階を使ってください!2階にはみんなの部屋がありますよ!スルタナさんとエリスさんが1階で寝ているのでみんなと言っても私とアルマさんだけですが」

「部屋になってるの?」

「そうです。一応二人一組の部屋ですね」

「じゃー俺は一人部屋かな。」

「そうね、流石に私と一緒じゃダメだし、じゃー私もとりあえず一人で使ってて良いかな?」

「はい!構いませんよ!部屋はまだたくさん余っているので!あ、ちなみに、今日はやっていませんが、定期的にお風呂を作るのでその時はまた教えますね。」

「風呂に入れるんだ!それは良かった~」

「ちなみに水はどうしてるんだ?」

「アルマさんの魔法で出しています。暖めるのもアルマさんですよ!」

「魔法使えるのがアルマだけなのか?」

「属性がありますので、水と火の属性がいない、と言うことですね」


また、人員不足を感じる二人は渋い顔をするが、風呂に入れることに安堵している。


「ふぁぁぁ、ダメだ眠い寝させてもらうな」

「私も限界かも」

「わかりました。明日も頑張りましょう!」「あぁお休み」

「おやすみー」


三人は別れ別々の部屋に入る。ハルトは部屋の中を確認しベッドだけが置かれた簡素な空間に特に何を思うこともなく自然に流れるように布団に入った。そのあとは睡魔に任せ、すぐに眠ってしまった。



別の部屋では、


(お二人はもっといいギルドに入れたのにここに入ってくれたのです!がっかりさせないように頑張っていかなくてはいけませんね!)


メリナが意気込んでいた。しかしここで疑問が1つ。


(...お二人は元の世界に帰りたいとかは無いのでしょうか。そうなっては私たちに止める権利はありませんし、また寂しいギルドになってしまいますね。でも、あまり戻りたいようには見えませんし、なぜでしょう?)


そんな思考とともにメリナは眠りに落ちていった。




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