第6話 売られたケンカは...


「こりゃすげぇ、中世ヨーロッパの映画でも見てるみたいだな。臨場感は映画の非じゃないけど」

「なんてファンタジーな建物たち!木造と、レンガ?土とかを固めてるのかな。」

「異世界とは建物から違うのですか?」

「そうだな。少なくとも俺たちの国ではこの猪を何個重ねても足りないくらいの建物が乱立してたりするぞ。」

「!?そんなの、想像もできません!」

「まあ、私たちの世界のことは今度話すから、今はもっとこの世界とこの町について知りたいかなー!」

「はい!是非聞かせてください!では、まずはセントラルを目指しましょう!」


ハルトの背負う猪は少々、いや、かなり目立つので早くセントラルに預かって欲しいと、メリナはセントラルへの道を促す。




途中、様々な視線を感じながらも、そして商売根性たくましい出店の店員に声をかけられながら、三人はセントラルの前までたどり着く。


「でけぇな。他の建物とは比べ物にならん。」

「そうね。まあその猪は入り口に入らなそうだけど。」

「入り口前に置いておきましょう。こんな大きいの、盗られるわけがありませんから。」

「了解。よいしょお!」


ズン!と肉が沈む音がする。振動が周りの人間にも伝わっていることだろう。そして思う。あの怪力の少年は人間なのだろうか、と。

それを代弁するかのように、トーマはハルトに問う


「...あんたほんとに人間なの?」

「失礼だな!一応生物学上はそう定義されてるぞ!まあ、精密検査したら変わってくるかもな!なはは!」

「周りの視線が痛いわぁ」

「で、では御二人とも?そろそろ入りませんか?」

「そだな。ワクワクしてきた!」

「ワクワク!」


扉を開けると、そこは所謂テンプレ的な作りになっている。依頼を確認する掲示板、恐らく酒が飲める酒場、受付台とそこに座る受付嬢。

ハルトとトーマは受付に向かい躊躇なく歩いていき、


「「登録に来ました!」」


元気よく告げる。


「登録ですね。わかりました。ではこちらの書類への記載をお願いします。」


笑顔で対応する受付嬢から渡された書類には、名前、年齢、希望役職、魔力の欄のみであった。


「魔力はこれから計測しますので書かなくて結構です」

「うぅ、ヤバイどうしよう。役職なんて決めてないよ...」

「なら、未記入でも大丈夫です。」


そんなやり取りをし、記入していくと、


「おいおいおい!役職も決めてねぇようなガキと、ほっせぇガキが冒険者になって何ができるってんだよ!いっちょまえに大人ぶってるんじゃねぇぞ!舐めてるなら帰れ!変な格好してきやがって!」


絡まれた。酒場で飲んでいたゴツい冒険者である。体がとても大きく隣にあるハンマーはモンスターの討伐に使うのだろう。そのハンマーも大きく扱うにはやはりかなりの力が必要と見える。


「ああ、やっぱ絡みやがった。今日はあいつ結構飲んでやがったからな。うへぇかわいそうに」

「いや、むしろ舐めてるわけぇのに思い知らせてやればいい。そうだやっちまえ!」


周りで飲んでる冒険者もざわざわと騒ぎ出す。それを聞きハルトはいち早く書類を書き終え、


「うるせぇな、別に良いだろ、てかあんたらもこの絶好の時間に仕事しなくて良いのか?こんなんだったら大人の世界も甘そうで楽しみだぜ!」

「んだとごらぁ!!!」


ハンマーを持った声をかけてきた強そうな男が立ち上がりハルトに近づいていく。


「てめぇ、覚悟の上で俺にケンカ売ってんのか?」

「なんの覚悟か知らんがやる気ならかかってこい。自慢の怪力を見せてみろよ!」

「あわわ、ハルトさん、その人は...」

「なんだ?戦闘もできねぇ弱者の集いの弱小ギルドのやつか。こいつらと関わってんのも頷けるな。雑魚仲間を増やしてまーすってか!」

「お口はえらい達者だなぁ!さっさと力を見せてくれよ!」

「よぉし!良く言ったくそがき!今ぶっ飛ばしてやるよぉ!」


熱くなっている空気の中、ハルトは冷静に判断する。


(このおっさん、酔いが回ってねぇな?なかなか食わせ者かもしんねぇ!)


「おらぁ!」


という怒号と共に男の太い腕がハルトの細い体に迫る。思わず目をつぶる者。止めに入るタイミングを失い唖然とする者。面白がりヤジを飛ばす者と様々な反応を見られたが、その誰もが、殴った本人ですら目を見開く。

パシィ!

と、細腕のはずのハルトがその剛腕を止めたのである。驚くのは当たり前だ。周りの驚きを見ながらハルトは男に向かい言い放つ。


「こんなもんか?本当は加減してんだろ?もっと見せてくれって!出し惜しみは止めてくれよ!」

「まじかよ、このガキできるとは思ったが...」


小声でそう呟く。やはり酔ってなどいなかった男はしかし、まるで悪酔いしてるかのように、興奮して見せる。


「てめぇ!言わせておけば!」


男は自分の、見るからに年期の入った使い込まれてるハンマーを手に持ち、掲げハルトに降り下ろす!


「やり過ぎだ!」

「ハルトさん!!」

「おらぁ!!!」


ハルトはそのハンマーを

がきぃん!と金属同士が打ち付けられたような音が響き、男が仰け反る。ハルトはそこに、軽めの回し蹴りを叩き込み男を端まで吹き飛ばす。


「せいっ!」

「ぐぁぁあ!」


どうやら、壁にぶち当たった男は呻きながら気絶したようでピクリとも動かない。

まあ、その場で動ける者は誰もいなかったのだが。訂正。例外的に動き続けていた書類を記入し終わったトーマは


「書き終わったよ!これでいいんだよね?」

「え、あ、はい!ありがとうございます!トーマ様と、ハルト様ですね。それでは魔力検査へと移りましょう。」


その声と共に酒場にも騒がしさが戻ってくる。


「夢か?ガインがやられたぞ?」

「あのガインだぞ?夢に決まってる!」

「そ、そんなに酔っていたのか?足取りはまるで普通だったが...」

「ばか野郎!ガインが酒ごときで弱るはずがねぇ!」


と、未だに信じられていない男たちは無意味な論争を繰り広げる。話の中心であるハルトはどこ吹く風で受付嬢の話を聞いているなかなかにカオスな空間が、はたから見れば日常と変わらぬ風景がその場に流れていた。


...一方メリナは未だに還ってこれていない。



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